村上春樹氏をはじめ、様々な人が褒めそやす名作だそうですが、あたくしにゃ分からんな……。
心身を病みながらも疾走する主人公たち。冷酷かつ凶悪な手負いの獣たちが、垣間みる光とは。村上春樹のエッセイにも取り上げられた、O・ヘンリー賞受賞作家の衝撃のデビュー短篇集、待望の復刊。
著者はトム・ジョーンズ氏。最近亡くなられてるんですね。
岸本氏の他に舞城王太郎氏と村上春樹氏に訳されてるんだ。へー。
位置: 645
メイソンは肩をすくめて「俺は知らんよ」と言った。それから全員に大きなオレンジ色の〝 週イチ〟のマラリア錠剤と、白い小さな〝 毎日〟を配りはじめた。それから塩の錠剤も回した。バラックの外に出て、缶に半分残った気の抜けたバドワイザーで錠剤を流しこんでいると、ヘリが到着した。俺はジャングルハットを片手で押さえて走り、一番最後に飛び乗り、恐怖よりも先にクスリが効いてくれることを祈りながら座席におさまった。
ベトナム戦争の話。どうしても『フォレスト・ガンプ』とか『トロピック・サンダー』とかを思い出してしまう。
位置: 683
もしも捕虜の口が重いようなら、銃剣を抜いてピンの先をはじく。それが行われているあいだじゅう、シンはクールで、丁寧で、にこやかでさえある。しかし捕虜がそれまで何であったにせよ──共産主義の理論家、愛国者、兵士、夫、父親、息子、何であれだ──その男がかつてそうであったものは跡形もなく消し飛んで、痛みを容れたただの器と化し、その痛みから逃れること以外に、彼にとってこの世で意味のあることは何一つなくなってしまう。
背筋の凍るような描写。翻訳ならではの言い回しが、戦争モノのフィクション感とつながって妙に怖い。
位置: 890
チャーリーどもがうようよやって来るぞ。走って走って走りつづけろ。しかし、いつまでだ? チャーリーが今にこの道をやって来る、そうしたらお前はぶっ殺されるぞ、トミーボーイ。さあどうする? とにかく走れ。糞をちびったか? ズボンを濡らしちまったのか? 放っておけ。走れ。ひたすら走れ。怖いか、トミーボーイ?
開高健の作品も思い出しました。怖いなー。
位置: 1,104
何にせよ、バギットは自分よりさらにタフで手ごわいものに出会い、一瞬だけ精神の安定を取り戻した。だから奴は葉書をよこして、自分は大丈夫だ、ありがとうと言いたかったのだろう。怖がらせてくれてありがとう。死ぬほど殴ってくれてありがとう、と。俺はボクシングでそういうのを嫌というほどこの目で見てきたから、人は時に徹底的にぶちのめされることで救われるということを知っていたが、いっぽうではバギットのような人間は決して完全には治らないこともわかっていた。
んー、ボクシング好きだったら面白く読めるのかも知れないけどなー。あたくしにはピンと来ていない。
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