武田綾乃著『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話』 優子見参!

優子部長、カリスマ扱いなのに表紙に出てくるのは初めてじゃないです?二年生のときは「香織ファンのいけ好かないやつ」だったけど、どんどんかっこよくなる。ガーリーなところもまた魅力。あたくしは夏紀先輩びいきですが、だからこそ優子部長かっこいい。

位置: 125
彼女の黒髪が、春風に乗ってそよいでいた。
「みぞれ、さっき優子となんの話してたの?」
「大事な話」
「ふうん?」
はぐらかされるとは思っていなかったので、自然と眉根が寄っていた。こちらの異変など気にも留めていないのか、みぞれはマイペースに言葉を続ける。
「でも、優子に負けた」
「負けたの?」
「うん。でも優子が、負けたほうが勝ちって」

位置: 152
「ほんまアンタら仲ええなあ」
呆れ交じりに本音を漏らすと、二人そろって「仲良くないわ!」と叫ばれた。一連の流れを見守っていたみぞれが、「二人は引き分け」と訳知り顔でつぶやいてい

どうやらみぞれは優子と何か賭けのようなことをしていた様子。明確な正解は、あたくしが読んだ限りは書かれていなかったはず。
明記されていないことを読むのが趣味のあたくしですが、ここは分からなかった。友情を知らないからか?誰か、分かる人がいたらおせーて。

位置: 276
シャープペンシルの後ろをコツコツと指の腹でノックしながら、葉月は深くため息をついた。
「勉強が将来なんの役に立つんやろって思わん? サインコサインとか、おくるおこたるとか。これ、高校卒業してからほんまに必要になるんやろうか」
「まあ、お姉ちゃんとか見てると、サインコサインを日常生活で使ってるようには見えないね」
数学嫌いの久美子が葉月の愚痴に賛同する。麗奈が目を細めた。
「必要かどうかはその人次第でしょ。勉強が役に立たないって言ってる人は、役に立たないような道を選んだってだけやと思うけど」
「ほーん。わかるようなわからんような」
「勉強してないと、自分の選択肢が狭まってるってことにすら気づけないってこと。だから、もし将来なりたいものが決まってないなら、アタシはちゃんと勉強しといたほうがいいと思う。」

ド正論。ぐうの音もでません。
しかしこういうことを言うから麗奈って魅力ないんだよなー。可愛げがないとでもいうか。

位置: 406
「私、ここまでほかの誰かと仲良くなりたいって思ったことなかったの。一生で、多分あすかだけ」
香織は、自分が他者から愛されることを知っていた。クラスで香織が困っていると誰かがすぐに手を差し伸べてくれる。

その点、香織先輩の可愛らしさよ。その自覚があるところも可愛げ。

位置: 417
「じゃ、香織はさ、うちが特別な人間じゃなかったら、好きじゃなくなるん?」
そんなことない、と即座に否定しなかったのは、あすかの台詞を自分のなかでうまく噛み砕くことができなかったからだった。香織にとってあすかという存在そのものが特別なのだから、あすかが特別でなくなるなんてことはありえない。
ごくりと喉が上下する。唇が震え、うまく言葉が出なかった。あすかの瞳に失望の色がよぎったのがわかった。レンズ越しに映る両目を細め、彼女はへらりと薄っぺらい笑みを浮かべた。

人生で「あのときの自分の言葉を否定したい」という欲求はままありますが、香織先輩はこのときに「そんなことない」と言えなかったことなんだってさ。へー。

位置: 440
私はあすかとずっと一緒にいたい。あすかの一番になりたいです。だから、勇気を出してこの手紙を書きました。なんか、文字が震えて変な感じになっちゃってるね。普段はもっと 綺麗 な字を書けるんだよ?本当だからね。 あすか。私はあすかと出会えて幸せです。友達でいてくれてありがとう。そして、もしよければ、これからも一緒にいてください。あすか。本当、なんて書けばいいんだろう。あすかの名前ばっかり書いて、これじゃ全然伝わらないね。つまり、いや、つまりっていうのもおかしいんだけど、私、春から看護学校に進学します。もう言ったよね、あすかの行く大学の近くにあるって。それでね、本当にもし、もしよかったらなんだけど、あ、なんか、手のひらに汗かいてきちゃった。読みにくかったらごめんなさい。
もしあすかさえよければ、一緒に住みませんか。
ルームシェア、昔から憧れてたの。もちろん、無理にとは言いません。ただ、そうしたらお互い生活費が安くなっていいかなって。

大胆な提案。可愛いよね。
ほんと、末永くお幸せにって感じだ。

位置: 551
「葵やん。ビックリ、こんなところで会うなんて」
うっすらと上気する彼女の頬が、音もなくほどけた。綻ぶ口元には 安堵 がにじんでおり、その現実が葵の恐れを軽減させた。正直に言うと、自分が退部したことを当時の部員たちがいまだに根に持っているのではないかと不安に思っていたのだ。
──いや、それも正確ではない。葵は皆から許されることを願っていた半面、あの日のことが 些末 な出来事として完全に忘れ去られることも嫌だった。

葵ちゃんは本当に人間臭い。もっとこの子の話が聞きたいと思わせるくらい。麗奈のサイドストーリーに興味はさらさらないけど、葵ちゃんの話はもっと聞きたい。第一志望の大学に行けたみたいだしね。

位置: 768
「多分ね、芹菜ちゃんをマーコンに誘ったお友達は、芹菜ちゃんに自分が頑張ってるところ見てほしいんやと思う! だからね、芹菜ちゃんも恥ずかしがらずにちゃんと伝えてあげなきゃあかんで」
「べつに恥ずかしがってるわけじゃ──」
「言い訳禁止!」
きっぱりと言いきられ、芹菜は思わず苦笑した。幼げな見た目だが、川島は多分、自分よりもずっと 聡い。自分の人生で何を大事にすべきかを、彼女は明確に理解している。
「まぁ、うん……わかった」

サファイア川島は本当に聡い。

位置: 869
「あすかはどうして優子ちゃんを部長に指名したの?」
香織が疑問を口にする。あすかは額にタオルをのせると、「んー」と天を仰いだ。
「だってさぁ、あの子は部長以外やれないでしょ」
「どういう意味?」
「そのままの意味。よくも悪くもカリスマ性がありすぎんねんなぁ、あの子。トップ以外の場所に立つと、支持を集めすぎてトップが機能しいひんくなる。ひと言でまとめると、部活クラッシャーってこと。本人は無自覚やろうけど。」

あすか先輩も本当に聡い。
カリスマ性があって発言するタイプの人間は、リーダー以外できないってことです。なんとなく正しい気もするね。性格が優しいかどうかはこの際問題ではなく、ね。

位置: 919
赤い 眼鏡 のフレーム越しにのぞくその瞳を、晴香は不意にのぞき込みたい衝動に駆られた。屈託のない笑顔は、まるで子供みたいだ。
「お土産、買う?」
尋ねたのに意味はなかった。ただ、田中あすかという人間にこの瞬間を刻みつけてやりたいと思った。
自分とあすかの友情は、これから先、いま以上の密度を持つことはないだろう。自分は、香織とは違う。信奉者のごとくあすかに心酔することも、自己を 捧げることもできない。数年単位で集まって、ちょっと近況報告をする程度の仲。多分、それぐらいがちょうどいい。知人より少しグレードの高い友人関係は、いつか懐かしさとわずらわしさに書き換えられていくのだろう。
でも、いまだけ。いまだけはまだ、自分たちは友達だった。ここにいるのは北宇治高校吹奏楽部の部長であり、副部長であり、パートリーダーだった。卒業後は価値を失う肩書を、忘れないでいたかった。いまを共有している 証 を、晴香は欲した。

自分が欠点だらけの部長だったせいか、晴香にものすごい共感するんだよね。
そしてその感覚。今後これ以上接近はしないけど、確かに私たちは友達だった、って感覚。死ぬときまで思うんだろうな。

位置: 1,188
部長として振る舞う優子の姿を思い出し、希美はふと口元を緩めた。引退するその瞬間まで、彼女は理想的な部長だった。優しくて、少し怖くて、まっすぐで。憧れるなんて言葉で形容するには自分と優子の距離は近すぎたし、うらやましいと認めるには自分の心は柔らかすぎた。他人の悪口を言うほうが、自分自身と向き合うよりもずっと楽だ。苦しいことと向き合うには未来はあまりに長いから、理不尽さを誰かにぶつけて解決したと思い込みたくなる。でも、自分がそんな人間になるのは嫌だ。希美は、自分のなかにある醜い部分から目を 逸らさない人でありたい。

こういう志がしっかりしたところとか、希美は悪い子じゃないのよ。鈍感なだけで。
意思も強い。部活やめちゃうくらいだしね。今回は、結局もどってきたけど、それだって長い目で見ればいい経験だったと思うし。嫌ならやめる、よければ戻る。それって別に悪いことじゃないでしょ。

位置: 1,385
「俺、梨子以外の人とか考えられんから」
「うん」
「待っててほしい」
わかった、とうなずくのは簡単だった。だが、梨子はそうしなかった。薄いハンカチは水を吸って、わずかに重さを含んでいる。乾く口を濡らすように、梨子は唾を飲み込んだ。東京は遠い。だが、会いに行けない場所ではない。
「待てなくなったら、うちから会いに行くから」

位置: 1,391
恋人たちに残された時間は、未練を殺すには短すぎたが、将来を誓い合うには充分だった

この二人最高なんですよ。嫌いな人はいないでしょう。人格者たち。
コテコテのラブシーンもしっかり書ける。武田さんすごいなぁ。

麗奈は正しいが魅力出来でなく、サファイア川島は正しくて魅力的。

12 アンサンブルコンテスト

位置: 1,792
「久美子ちゃんはこれから部長さんとして頑張っていくんやろ? やったらね、謝る言葉の使いどころはちゃんと考えたほうがいいって緑は思うねん。だって、部長に謝られたら、後輩は恐縮しちゃうやろ?」
「そうかなぁ」
「少なくとも、緑はありがとうって言われたほうがうれしい!」

このサファイア川島の正しさ。
ひたすらに正しく、格好いい。求が弟子入りするのもわかる。これで楽器が上手いんだからね。

位置: 2,613
「私、下手やし。いままでずっと自分がBなんは当たり前やと思ってたんやけど、でも……でも、順菜ちゃんみたいに、自分もAで出たいって思ってええんかな」
「ダメって言う人なんていないよ」
「そうかな」
「そうだよ」
顔を背けるように、つばめは再び前を向いた。滑らかに回り出した車輪が、楽器を前へ前へと運ぶ。自身の顔をぐしぐしと袖で拭い、つばめは何事もなかったかのように歩き出した。そのしっかりとした足取りを目で追いながら、久美子はマリンバに手を添えた。久美子が押さなくとも、車輪は回り続けていた。

最後の一文。こういう心情をモノに語らせるの、武田先生の主義なんですかね。かっこいいですけど。

  • 13 飛び立つ君の背を見上げる(D.C.)

D.C.というのはワシントンではなくて、「曲の最初に戻る」という意味の演奏記号なんだとさ。ループっちゅうことでしょうか。

位置: 2,798
「優子、いままでありがとう」
もう駄目だった。真ん丸な目の奥から、次から次へと涙があふれる。流れるしずくを手の甲で拭い、それでも足りず、優子はセーラー服越しに両目を腕に押しつけた。
友人の異変に気づいたのか、みぞれがあたふたと慌てている。
「優子、どうしたの? 私、ダメなこと言った?」
「ちがう、全然。ダメじゃない。ただ、みぞれがそんなこと言ってくれるんがうれしくて」
「ほんと?」
「うん、ほんと。こっちこそ、」

位置: 2,808
「こっちこそ、いままでありがとう。みんなが辞めたときに、 吹部 に残ってくれてありがとう。オーボエを続けてくれてありがとう。一緒に頑張ってくれて、ほんまありがとう」
絞り出した台詞に、みぞれは不服そうに唇をとがらせた。
「……優子のほうが、ありがとうが 上手」
「何それ」
思わず笑ってしまった優子とは対照的に、みぞれは至って真面目な顔をしている。
「私がありがとうって伝えたかったのに。優子に負けた」
「こういうのに勝ち負けとかあるん?」
「わかんない」
「わからんのかい」

この二人、6年間一緒なんですよね。
すでに母子関係になりつつあるこの二人。6年間でみぞれは半端なく上手になり、しかし人の心を読むのは本当に苦手。優子がそのへんを常にフォローしてきた。

「あんたにとって私はなんなん!」のあのセリフ、格好良かったもんな。優子を見直したもの。

位置: 2,827
いつもどおりのやり取りを始めた二人を置いて、希美とみぞれが歩き始める。優子と夏紀は互いに顔を突き合わせながら、その後ろをついていく。四人が集まる、いつもの朝の光景だ。今日で最後の、いつもの光景。

自分にも卒業式ってあったはずなんだけど、全然記憶にないんですよね。不安のほうが大きかったのか、あんまり楽しい記憶がない。

位置: 2,831
きっと、みぞれはこれから優子の知らない世界を知るのだ。
手を伸ばし、優子はそっとその背を押す。優子がそんなことをしなくとも、みぞれは勝手に前へと進んでいく。そんなことはわかっていた。だからこれは、優子の最後のわがままだ。
「何?」
みぞれが振り返る。朝の日差しがまぶしくて、優子は目を細めた。
「なんでもない」

母親かよ。そして、優子→夏紀への手紙になります。

位置: 2,838
関西大会のあと、一緒に帰ったこと覚えとる? アンタさ、わざわざ遠回りしてうちについてきてさ。余計なお世話やとか言っちゃったけど、ほんまはうれしかったよ。ありがたかった。どっか行けって言って、それでもそばにいてくれるやつがおるってのは感謝すべきことやなとずっと思ってました。言葉で伝えられんかったけどね。アンタすぐ茶化すし、お礼とか言わせてくれんから。

吉川優子、すごいいい子。小笠原晴香も良かったし、あたくしはどちらかといえば晴香タイプだけど、だからこそ、優子すごいいい子。読み返すだけで泣きそう。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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