武田綾乃著『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 前編』 評価が難しい

最後まで読んで、1年生・2年生のときほどのドキドキはなかったかな。新しいことが起こらなかった。

そしてやっぱり部長は久美子。
あたくしはサファイア川島を推したいんだけどな。あすか先輩は前から見抜いていたらしい。それに優子先輩も乗っかったってことか。

位置: 696
「大丈夫だよ。絶対に楽しい高校生活になるから」
告げた台詞は、あのころの自分がかけてほしかった言葉だった

そんなふうに言ってほしかったんだっけな、あの頃。

位置: 984
「北宇治は毎年、多数決で目標を決めます。全国大会金賞を目指すか、それとも上を目指さず楽しい部活生活を求めるか、です」
こうした場の多数決は、じつは正しい回答が決まっている。イエスかノーか、その選択を強制するような空気がじわりじわりと足元から忍び寄る。一年生のとき、同調圧力が苦手だった。読まされた空気のなかでは息がしづらいから。だが、部長になったいまだと、物の見方が少し変わる。
どうか全員が賛成と言ってくれ。  でないと、今後の生活にしこりが残る。脳裏をちらりとよぎったのは、二年前に受験勉強を理由に部活を辞めた、 斎藤 葵 の横顔だった。

苦手だった同調圧力を、リーダーになると利用しなければならない矛盾。
誰だってありますよね。あたくしも利用したことあります。苦手だけど。

位置: 1,284
「どちらもマーチ曲ですね。アタシは『笛を吹く男』のほうが好きですが、北宇治に合ってるのは『キャット・スキップ』のほうかと思います」
提示された曲名に、麗奈はすぐさま反応した。全日本吹奏楽コンクールのA部門では課題曲と自由曲を演奏することが規定となっている。課題曲は五つ用意され、各団体はそのなかからひとつを選ぶ。
久美子も今年の課題曲については確認していたが、どれが好みかを考える程度で、演奏する際の分析にまで発想が至らなかった。これが意識の差だろうか、と 滔々 と意見を語る麗奈の横顔を久美子は眺める。
「個人の力はともかく、今年の北宇治でいちばん力のあるパートはクラリネットやと思ってます。

同じものをみていても見方が全然違う。そして深さも。
麗奈はいつだって深く物事をみている。久美子の浅さが好ましい。
「うちで一番力のあるパートが生きる曲にする」生存戦略として正しいですよね。

位置: 1,408
「さすが麗奈、頼りになる」
「久美子もそんな 他人事 みたいなこと言うてたらあかんやろ。アタシは今年、絶対に全国で金賞取りたいの。後悔しそうな選択肢は、全部潰していきたい」

意識高いね。麗奈主人公だったら全然おもしろくないだろうな。

位置: 1,982
「いや、じつはですね、久美子先輩たちは気づいてはるんかなぁって思って」 「気づいてるって、何に?」
「このままいくと、一年生たち、部活をボイコットしちゃいますよ」
「え?」
「集団退部って言うほうが正しいんですかね。このままだとみんな、心折れちゃいますよ」

位置: 2,003
麗奈の指導が厳しいことが初心者部員を苦しめていることは確かだが、だからといって麗奈にやり方を変えさせるのも気が進まない。そもそも、人間関係に左右されずに音楽指導ができるようにと、前の部長・副部長は麗奈をドラムメジャーに指定したのだ。麗奈の手を煩わすことなくこの問題を解決することが、部長たる自分の存在意義であるのは間違いない。

新たに起こる、集団退部問題。
麗奈が厳しいからね。ありうる話ではある。「そういう温度の吹奏楽ややりたいんじゃない」って正論だからね。部活の難しさだよね。名作「キャプテン」にもそういう描写あったなー。

位置: 2,270
北宇治は人数的には余裕があるのに、どうして音楽の楽しさを知る前に足を引っ張るなって怒られなきゃいけないんだろうって、そう思ったんです。ゼロをプラスにする努力は楽しいけれど、マイナスをゼロにしろと怒られるのはちっとも楽しくないじゃないですか

苦しいトレーニングの末にしか見れない感動はある。確かにあるけど、強制するのは違う。
部活の難しさだよね。部活の数は有限で、楽器なんてさらに有限だしね。

位置: 2,283
なんて真面目な子なんだろう。話に耳を傾けながら、久美子は静かに息を吐き出す。吐息に混じる 憐憫 が、生ぬるい室内に溶けて沈んだ。

吐息に混じるのが「憐憫」なのが武田先生の言葉チョイスのセンスだと思います。
あえて意地悪な言葉遣い。久美子ってホント、人間らしくていい。

位置: 2,293
「ありがとう、サリーちゃん。いままで頑張ってくれて。サリーちゃんのおかげで百三人、全員いるよ。一年生だって、まだ一人も抜けてない」
「久美子先輩……」
沙里の瞳が光でにじむ。刺さった、と久美子は心のなかで確信した。
彼女が本当に欲しているものは、自身のこれまでの行動に対する報酬だ。彼女はきっと、感謝されたい。人知れず周囲を支えてきた自分の努力を、誰かに認めてもらいたい。

スケコマシのような心理描写。
武田先生、意地悪だなー。

位置: 2,303
「サリーちゃんがいれば、北宇治はもっとよくなるよ」
「そ、それはちょっと、褒めすぎだと思いますけど」
「褒めすぎじゃないよ。私の本心」
はっきりとそう言いきったのは、 躊躇 した途端に沙里の心が離れていってしまうとわかっていたから。沙里の指先が震える。その両手で、彼女は自身の顔を覆った。ルームウェアからのぞく首筋が、ごくんと一度大きく動いた。
「ありがとうございます」
前へと傾いた頭を、久美子は軽く指でなでた。絹のような黒髪が、皮膚と皮膚のあいだを滑っていく。彼女はきっと、大丈夫だろう。久美子にはその確信があった。

いや、策士ですよ。いつのまにこんな人間になった、久美子。
お父さんは悲しい。いや、悲しくもないか。立派になったな。

部長として抱える悩みの大きさが、久美子を一層大きくしたのか。
部活ってホント、矛盾だらけで大変。

位置: 2,327
「そら北宇治におったら全員そうなるやろ、久美子だけじゃなく。やっぱ、上手いやつは一目置かれるべきやと思うし」
口を挟んだ葉月に、「確かにー」と梨々花は素直に同意した。
「下手な子が優遇されるよりは健全ですしね」
「やろ? 久美子は部長やから、とくにそういう傾向になるんはしゃあないとうちは思うで。そういうとこ含めて、久美子はいい部長やなって思ってるし」
そう言って、葉月は久美子の肩に腕を回した。引き寄せられ、彼女の体温を肌越しに感じる。「な?」と歯を見せて笑う葉月に、久美子はただ曖昧に口角を上げた。
外から見えている自分と、自分が認識していた自分。そこにあるズレが、気持ち悪くて仕方なかった。

「人格等より演奏力を評価する人物」という評価が受け入れがたいのはよく分かります。冷徹漢みたいだもんね。ただ、周りはそう思っていたってこと。これ気持ち悪い。

この違和感みたいなものを伏線に、なにかしてくれたらよかったんだけど、この辺の起爆剤が爆発せずに終わるのよね、本書。ちょっと残念。

位置: 2,410
「アタシの演奏を判断するのは、滝先生であってほしい。絶対的に信用できる耳を持ってる人やないと、落とされても納得できひんから」
麗奈らしい意見だ。彼女はいつも、大事な判断は人数を絞って行うべきだと主張している。大勢の人間の意見に合わせて作ったものは欠点が少なくなるのは確かだが、飛び抜けたものになりえない。

感心するくらい正しい。責任を分散させたものが最高にはなりえないってこと。ま、最高のものを作り上げる必要があるのかって問題もあるけどね、会社員になるとさ。

位置: 3,520
「申し訳なく思う必要なんてないよ。また何か気になることがあったら、私にどんどん言ってほしい。みっちゃんの意見って、参考になるから」
私でよければ、と美玲が満更でもない声音でつぶやく。本当に、彼女は素直で可愛い後輩だ。

悪・久美子ですよ。「ニヤリ」という音が聞こえてきそうな。
「扱いやすくて」いい子って評価を下す。冷徹さが可愛い。そこに違和感とか居心地の悪さを感じているあたりも。

位置: 3,732
「ね、久美子ちゃん」
「ん?」
「さっきの曲、なんて曲なの? すっごく素敵だなって思ったんだけど」
ごくん、と自分が唾を飲み込む音がやけにはっきりと聞こえた。こちらを振り返る真由の表情からは、一切の悪意を感じない。自分の心に忠実な、素直な言葉だった。
言い渋る理由はない。それなのに、久美子は本能的な不快感を覚えた。視界の端で、銀色のユーフォニアムが影へと溶け込んでいる。
「教えるほどの曲じゃないっていうか……うーん、ただの気まぐれで吹いてただけで」
「もしかして、久美子ちゃん作曲?」
「まさか。人から教えてもらった曲だよ」
「そうなんだ。先輩?」
「まあね」
真由のことは好きだ。いい子だと思う。だが、踏み込まれると抵抗がある。距離を縮めることに、困惑する自分がいる。

またこの真由ちゃんよ。どんなにどす黒い腹ん中をしているんだとワクワクしていました。いい子なんだけどかなり空気読めてないというか。読めてないことに無自覚な感じ。単なるナチュラル痛い子なだけじゃないことを期待しまくっていました。

ところが……そのへんは最終巻で明らかになります。

位置: 3,883
「部長、いつものやつ」と隣にいる久美子に秀一が耳打ちする。それを見た麗奈の顔が、一瞬だけ 般若 みたいに引きつった。「ほんまそういうとこ、ないわ」と麗奈は部員に聞こえない程度の声量で毒づく。多分、秀一には聞こえていた。

この三角?関係にもちゃんとした結末を用意して欲しい。欲しかった。
いや、ちゃんとしているんだけどさ。ある程度雨降って、そんで地固まって欲しかった。

位置: 3,902
与えられた時間は刹那で、逡巡する隙すら与えず真由の心の扉は閉まってしまった。彼女は多分、意図的に何かを隠そうとしているのではない。あすかのように本心を大人の仮面で塗り固めているわけでも、奏のように大人びた自分を演出しているわけでもない。ただ、いい子というひと言で表すには、何かが異質なのだ。

真由ちゃん、気味悪くっていい感じなんですよね。
これを活かせるかどうかは、次巻にかかっています。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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