『どくとるマンボウ航海記』感想_2 30年ぶりに読むと全然違うね

船医という仕事も、なかなか。
とはいえ、医者だからなぁ。

位置: 2,266
しばらくビールを飲むほどに、私はいい心持ちになってきてライン・ワインを命じた。すると年とった給仕が、よくぞワインを注文なさったと言わんばかりに満面に 笑みをたたえてリストを持ってきた。ドイツではチンピラのボーイをも 給仕長 と呼ぶが、この 爺 ちゃんはいかにもそう呼ぶにふさわしい 人品 骨柄 をしていた。がっしりとした 短躯 で、顔に刻まれた 皺 は 柔和 と 威厳 を形づくり、頭はつるつるに 禿げあがっている。彼があまりにも 満悦 しきった様子を示すので、うっかり年代物のワインなど飲まされてはかなわぬと思い、あまり高くないのを、などと 本音 を 吐いても彼の態度はいささかも変らない。ではこのへんでは、と 慈母 のごとくリストを指さし、うなずくとうやうやしく運んできて、満悦しきって味見をさせ、満悦しきってグラスにそそぎ、満悦しきってうやうやしくひきさがる。

単なる年取った給仕とのやりとりですが、そこに見栄と虚栄心と人間観察を織り交ぜる。途端に立体的になりますね。

位置: 2,291
私の方はしまいには完全に 酔っぱらい、君の眼はきれいだ、まるで星の 輝きのようだ、君の 唇 はほんとに 蜜 みたいだ、などと言ったが、なにぶんそんな言葉しかでてこなかったのである。しかし自国語ではとてもしゃべれぬこんな 文句 もわが耳にはなんだか詩みたいにひびくので、これからみても『 魔 の山』の中でハンス・カストルプにあのキチガイじみた愛の告白をフランス語でさせたのはいかに 絶妙 であるかがわかる。

引用するのが『魔の山』なのがやはりこの人物の教養を伺わせます。
やはりトマス・マン、読まねば。

位置: 2,337
ロッテルダムといえば第二次大戦の 記憶 ぐらいしか起らなかったが、港にちかい大きな 敷石 の上を帰ってきたときはっと 憶 いだした。ここは 愚人 を 讃えてくれた 賢人 エラスムスのいた街であった。

『痴愚神礼讃』のことかしら。
当然のことながら未読。恥ずべき。読まねば。

位置: 2,836
モンマルトルの 石 畳みの上を歩いていたら、絵を 描いている男が 幾人 もいた。パリの石畳みはあまりにも有名であるが別にどうということはなく、それだけとりだせば、リスボンの方がずっとおもむきがある。

リスボン、いいよねぇ。パリも行ったけど、リスボンのほうが良かった、というのは同意見。

位置: 3,277
Hはまだ研究課目が決まっておらず 閑 だったので、結局私はここでもずっと彼に案内してもらうことになってしまった。案内者がいると確かに便利で、一人では三カ所くらいしか回れないところを五つも六つも見られるし、また短期間の旅行者というものはあれも見たいこれも見たいと欲ばるものだが、これは後でふりかえってみるとマイナスの方が大きいように思われる。写真機も往々にして有害である。建築科の学生に 桂離宮 を見学させたところ、カメラを持ってこなかった者の方が 遥かによく観察していたそうだ。

よく言われることですがね。
とはいえスマホでいいから、ある程度は写真を撮っておくのもいいよね。程度の問題さね。見るのと撮るのと、バランスが大事。

位置: 3,921
私は本を手に入れたときは、外箱などあれば必ず取って捨て去ることにしている。外箱があるとそれだけ本を開くのに時間がかかるし、なかには 随分 ときつい箱があって本をひきだすだけで腹がへってしまうからである。たとえいかに見事な外箱であっても、未練が残らぬようメチャメチャに 踏みつぶし、火をつけて燃してしまうべきである。表紙にセロファン紙などかぶせてあれば、これもズタズタに 引裂いて 紙屑 籠 にほうりこまねばならない。こんなものがついていると、手がすべったり、おまけにイヤらしい音をたてたりして身の毛がよだつ。

そこまで言ってもらえると遠慮なく捨てられる。
よく恭しくとっている人がいて、またそれがあると売るときの値段が違ったりするんですが、それはそれ。こちとら「持たない」主義でやらせてもらってますんで。

位置: 4,108
夜、十一時に出港の予定だが、それまでは 閑 である。サード・オフィサー達は大使館のレセプションに行っており、この土地では夜一人で賭博場へ乗りこむ気もしないし金ももうあまりない。ただ本場のカレーだけは食べておこうと思って、ニホンホテルへ出かけた。
「カリー」と 頼むと「チキン?」と言うからうなずいて、さて運ばれてきた料理を見ると、 皿 の真中に 鶏 の 腿肉 がのり、それに赤っぽい 汁 がたっぷりかかっている。日本のカレーの 概念 より、完全にトウガラシの赤い色なのである。そのほか別皿にたっぷりボロボロした飯が 盛ってある。なにほどのことやあらんと一口すすってみて驚いた。舌が曲りそうなのである。
しかし私は生れつき 辛いものが好きなので、このくらいなことで参るものかと、なお 幾 口 か食べた。すると口中が火のごとく燃えてきた。私は 天井 までとびあがりたかったが、さあらぬ態で、ビールを命じ水の代りを命じた。それらを 交互 に飲むとやや落着いてきたので、 更にカレーを口に運んだ。そのたびに口中はヨウコウロのごとくなり、天井までとびあがらぬため 椅子 にしがみつき、ビールと水でウガイをしては 断末魔 の 吐息 をついた。飯は単にボロボロしているだけで少しもうまくない。

本場のカレーは本当に辛い。懐かしいな、スリランカ。
インドに行く人は多かれど、スリランカはあまり。しかしスリランカは良かった。カレーはひたすら辛かったけど。

どくとるマンボウ、教養主義的で面白い。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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