『どくとるマンボウ航海記』感想_1 30年ぶりに読むと全然違うね

やっぱり本を読むにはそれなりに知識が必要でした。
当時8歳くらいだった自分にはちんぷんかんぷんだったもの。今読むと面白いけど、面白いと思えるまで30年かかりました。

やはり読書するなら相応のものがいい、と実感ですね。不相応なものを読んでも不幸になるだけ。

水産庁の漁業調査船に船医として乗りこみ、5カ月間、世界を回遊した作者の興味あふれる航海記。航海生活、寄港したアジア、アフリカ、ヨーロッパ各地の生活と風景、成功談と失敗談などを、独特の軽妙なユーモアと卓抜な文明批評を織りこんで描く型破りの旅行記である。のびやかなスタイルと奔放な精神とで、笑いさざめく航跡のなかに、青春の純潔を浮彫りにしたさわやかな作品。

さわやか?かしらね。

位置: 620
私がなぜこんなことをくわしく書くかというと、こういう 些細 なことこそ旅慣れぬ人々の役に立つと思うからである。その点私という男はまことに適役だ。なんとなれば第一に、ときに変なことをしでかしこそすれ、私はヤドカリのごとく気が弱い。この点私は世の女たちをもう少し見習うべきであろう。彼女らは三センチ平方の布地を買うにも、あれこれ目につくかぎりの品物を並べさせ、ショウウインドウからも持ってこさせ、それでも足りずにハシゴを 掛けさせて 棚 の一番てっぺんからもとりよせ、こすったり引張ったり 皺 を寄せてみたりして店中の品物をあらかたダメにしてしまい、あげくの 果「気に入ったものないわ」とおっしゃってプイと店を出てしまう。それが私となると品物を一つ手にとっても万引と 間違えられはせぬかとドキドキし、三つ四つ店員が取りだして見せようものなら罪悪感に打ちひしがれ、「これがまことに格好と存じます」などと言われようものなら 忽ち目がくらんでそれを買いこみ、店を出てからはじめて我に帰り、大いに 口惜しがってその店に放火しようなぞと考える。――

森見さんが影響を受けた、とどっかのインタビュー的なもので答えてたような気がしますが、まさにそれ。己を教養をまぶして卑下するスタイル。

位置: 998
何が好きだと言って幽霊くらい好きなものは私にはない。なによりも幽霊というものは実在の人間のごとく我々を 悩ましたりしないものである。

倒錯した認知も卑下した場所からだと滑稽にもなる。
発明ですね。

位置: 1,759
食卓 には毎日毎日マグロの 刺身 の 大皿 がでる。しまいには見るだけでうんざりしたが、それでも 箸 をつければ結構うまい。生の肉が一番 飽きにくいもので、 煮 たり焼いたりしてはすぐ鼻についてしまう。なにしろ甲板で 切身 を作っているところへ行き、自分で 出刃 をふるって頭のうしろの肉とか 極上 のトロを一片失敬し、 炊事 場 へ持って行けば夕食の席にそれを出してくれる。しかし 獲 りたてのものはいくらか固く、二日ほど置いたものが最もうまい。メカジキのトロなどは女の 腿 よりも白いとろけるような 脂肪 で、とても魚肉とは思えないほどだ。さらに船上でのマグロの処理の贅沢さは陸ではとても想像できない。

とれたてが美味いとは限らない、という生の声ですね。

位置: 1,770
そして毎夜食卓にはぶ厚いトロの山。これでは飽きるというよりも、これからのち金をはらって安っぽいサシミを食うなんてことは 絞首刑 よりつらく思われてくる。
ただひとつ残念なことに、船には本物のワサビがなかったことで、もしいくらかのワサビを入手できるのだったら、私は 魂 の二つや三つ平気で売りとばしてしまったろう。

最高の状態のトロがあってもわさびがないと、ねぇ。
生殺しだね。

位置: 2,181
マンはむろん今世紀最大の作家だが、現在ドイツでは私が思っているほど(もっともこれは 途方 もない思い方なのだが)読まれていないようだ。そればかりか「彼はドイツ人でないから」などとまだ言う連中がいくらもいる。次のショウペンハウエルの 遺言 をあらためて彼らに 捧げねばならぬ。「臨終に際して余は、ドイツ国民の法外な 愚昧 さを 軽蔑 し、余がこの国民の一人であることを 恥じていることを告白する」

恥ずかしながら未読です。トマス・マンね。

ショウペンハウエルは頭の固い爺ですので、後の世代に恨み言を言って死ぬのもさもありなんって感じですな。あたくしはそうならぬよう、頑張って生きたい。

位置: 2,200
それでも未知の土地の一人旅ほど心を 微妙 にくすぐるものはない。本当は、行先がどこなのか、いま自分は一体どこにいるのかわからないほどいいのである。

そういう旅、長らくしていないなぁ。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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