『私の消滅』は戦慄するくらい怖い場面と、よくわかんない場面と、両方ある 1

マツオさんのおすすめ。

このページをめくれば、
あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。

一行目に不気味な文章が書かれた、ある人物の手記。
それを読む男を待ち受けるのは、狂気か救済か。

『掏摸 スリ』『教団X』を越える衝撃。
中村文則が放つ、新たな最高傑作!

あの『教団X』の人ですね。未読ですが。
人の心理についての深堀が、成功しているところと疑問なところと、両方混在する本だと思いました。全面的に賛成できる、人の心理が余すところなく書かれている、というのは難しいですね。

『人間というのは妙な生きものよ。悪いことをしながら善いことをし、善いことをしながら悪事を働く』は池波正太郎先生の言葉ですが、そういう相反性があるから難しくも文学は成り立っているともいえます。

p15
私はなぜ、初めに妹を秘密の場所に連れて行ったのだろう。私の中にあったのは、確か に妹を叩いたことへの罪悪感だった。もちろん叩いてはいないが、幼い私の中にはそのよ うな倒錯した罪悪感があった。だから謝罪として、妹を連れて行くのに抵抗がなかった。
感じていたのが殺意だったら、臆病な私は恐怖し妹を連れて行かなかったはずだった。そ の罪悪感の発生にも、奇妙な点があった。まるで、妹を殺害した後の罪悪感を先取りし、 それへの謝罪のために妹をあの場所へ連れて行ったように。心理が奇妙な循環を見せていた。
ただ大きな鼓動だけがいつまでも続いていく。そもそも妹に、なぜ執拗にあの場所に行くなと言ったのだろう。妹の性格を考えれば逆をするはずなのに。

あとから自分の当時の心境を考えるのは、危険ですね。これを読んで思いました。人間は、とくに理屈で生きているタイプにとっては、後から理由を探すと陰謀論に陥りがちです。風が吹いたから桶屋が儲かるのであって、風を吹かせたのは桶矢では必ずしもない。というか大体そんなこと出来ない。

p25
母の口から、アルコールに混ざった肉の煮物の匂いがした。頭が痛くなり、声をやめさせるため、 母の身体を軽く押した。母は酒で酔っていたため、私の実際の力より、大きく身体を揺ら し壁にぶつかった。母には元々、大げさに被害態度を取る癖があった。
 目の前に、壁にぶつかった被虐的な母がいた。しかし私が目にしたのは、また別のもの だった。母が、反射的に一瞬、私を誘うように見たのだった。
 男達が母に暴力を振るう時、男達と母はそのまま性行為をすることが多かった。暴力的 なものが性を誘発するだけでなく、そもそも暴力的なものに性が内包されている。そうい った事柄に加え、母の中には、男に暴力を振るわれる時、男を性に誘うことで暴力をやめさせようとする情動があったのかもしれない。自分を痛みから守るために。それを、母は 気づかず反射的に私に向けた。母が媚びるように、私の中にある性の衝動そのものをじっ と見つめるように、挑むように、私を一瞬見たのだった。口元には微かな笑みが浮かんで いた。母にそんなつもりはなかっただろう。しかし母は、私に身体を押された驚きから、 自分がそう私を見ていることに気づいてなかった。

母さんがマリーシア。あたくしもその毛がありますが、大げさに被害態度をとりがち。そこに性的な要素があるというのは、ちょっと盲点でした。あたくしはその毛がないので、あまり興奮しませんが、攻撃的な男性にとっては暴力的なものが性を誘発、もしくは暴力がすでに性的であるということは、あるかもしれません。

p93
まず人間を逮捕し、監禁する。例えば腕を5時間ずっと上げ続けろ、と命令され、でき ないと激しく暴力を振るわれ、罵倒される。きちんとやろう、と思い頑張ると、今度は、 きちんとやっていても暴力を受け罵倒される。お前はなぜ捕まったのか、と何度も問われ、 わからないと暴力が待っている。あれだろうかこれだろうか。次第に、その人間は自分が していないことまで提案するようになる。
そこで激しく褒められる。愛情を受ける。褒美にチョコレートや煙草などをもらい、優 しくされる。認めてもらった、と思った時、また何の脈絡もなく罵倒される。そのうち、 その人間は自分を尋問する相手が何を望んでるのかを、必死に推測しようとする。その人 間の生存本能が起動され、脳が、その人間が元々もっていた信念や思想をこれ以上持ち続 けると危険と判断し、脳が、脳自らを変革してしまう

ストックホルム症候群、みたいな感じ。でも、そういう洗脳って有効だろうなとは思いますね。

洗脳とか深層心理とか、そういうのが大好きな人なんだな。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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