生きづらさを共感するのって何かメリットあるんすかね、そもそも。
位置: 565
「あ、そうだ、麻美、何かもっといい言い訳ってない? 最近、身体が弱いっていうだけじゃ、怪訝な顔されるようになっちゃった」
「……うーん、考えてみるね。お姉ちゃんはリハビリ中なんだから、身体が弱いっていうのも、全部言い訳や嘘っていうわけじゃないんだよ。堂々としてていいんだよ」
「でも、変な人って思われると、変じゃないって自分のことを思っている人から、根掘り葉掘り聞かれるでしょう? その面倒を回避するには、言い訳があると便利だよ」
皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている。私にはそれが迷惑だったし、 傲慢 で 鬱陶しかった。あんまり邪魔だと思うと、小学校のときのように、相手をスコップで殴って止めてしまいたくなるときがある。
マジョリティの傲慢ってやつですね。
悪意なく起こるものもあるので厄介なんだよな。
位置: 579
赤ん坊が泣き始めている。妹が慌ててあやして静かにさせようとしている。
テーブルの上の、ケーキを半分にする時に使った小さなナイフを見ながら、静かにさせるだけでいいならとても簡単なのに、大変だなあと思った。
最後の一文に思わず笑っちゃいました。
あたくしもここまで酷くはない。ちょっと盛り過ぎじゃないかしら。この発想に落ち着くって、よっぽど生きづらいですよ。
位置: 660
ふとそちらを見ると、吐き捨てるように白羽さんが言った。
「け、コンビニの店長ふぜいが、えっらそうに」
コンビニで働いていると、そこで働いているということを見下されることが、よくある。興味深いので私は見下している人の顔を見るのが、わりと好きだった。あ、人間だという感じがするのだ。
怒っている人みると「動物だなぁ」と思う時ありますね。本能むき出しで羨ましいなぁってね。もちろん、冷静に対応できるときばかりじゃないですけどね。
位置: 664
何かを見下している人は、特に目の形が面白くなる。そこに、反論に対する怯えや警戒、もしくは、反発してくるなら受けてたってやるぞという好戦的な光が宿っている場合もあれば、無意識に見下しているときは、優越感の混ざった 恍惚 とした快楽でできた液体に目玉が 浸り、膜が張っている場合もある。
妙にリアリティのある描写。しかし目の形に注目するのって面白い。
位置: 673
差別する人には私から見ると二種類あって、差別への衝動や欲望を内部に持っている人と、どこかで聞いたことを受け売りして、何も考えずに差別用語を連発しているだけの人だ。白羽さんは後者のようだった。
白羽くんの評価は悲しい限り。しかしその薄さこそがこの本には求められているんですな。
一周回って可愛い、ってなる人もいるでしょうが、あたくしはやっぱり白羽くん好きにはなれない。哀れみはするけどね。
位置: 728
「あの年齢でコンビニバイトをクビになるって、終わってますよね。あのままのたれ死んでくれればいいのに!」
皆が笑い声をあげ、私も「そうですね!」と頷きながら、私が異物になったときはこうして排除されるんだな、と思った
差別的な人間にマジョリティの暴力でもって立ち向かう。社会だな。
位置: 804
あ、私、異物になっている。ぼんやりと私は思った。
店を辞めさせられた白羽さんの姿が浮かぶ。次は私の番なのだろうか。
正常な世界はとても強引だから、異物は静かに 削除 される。まっとうでない人間は処理されていく。
そうか、だから治らなくてはならないんだ。治らないと、正常な人達に削除されるんだ。
家族がどうしてあんなに私を治そうとしてくれているのか、やっとわかったような気がした。
社会はえてして、身内には優しく外には厳しく出来てますからね。
吾輩は猫である、のようなメタ感を感じつつ、自分も人間であることを意識せざるを得ない。純文的でとてもいいと思います。読みやすい。
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