『毒入りチョコレート事件』 机上の空論合戦1

これはこれで面白いですけどね。

ロジャー・シェリンガムが創設した「犯罪研究会」の面々は、迷宮入り寸前の難事件に挑むことになった。被害者は、新製品という触れ込みのチョコレートを試食した夫妻。チョコレートには毒物が仕込まれており、夫は一命を取り留めたが、夫人は死亡する。だが、そのチョコレートは夫妻ではなく他人へ送られたものだった。会員たちは独自に調査を重ね、自慢の頭脳を駆使した推理を、一晩ずつ披露する――。誰がこの推理合戦に勝利するのか。本格ミステリ史上に燦然と輝く、傑作長編。

法廷ミステリならぬ会議室ミステリ。
事件は現場で起こっているかもしれないけど、それはそれで会話は会議室でやろうよ、的な。

どんでん返しの連続で面白いけど、どこか浮世離れした感じもあって、読み物としてはそれでよし。

位置: 574
さまざまな立論の説明や討論が行われようとするのを、ロジャーは強く抑えた。この実験の趣旨は、彼が再三指摘したように、各人が、他のメンバーの意見にわずらわされることなく、独立して推理を進め、彼または彼女の理論を構成し、彼または彼女独自の方法でそれを証明することにあるのだ。

なんと高尚な遊びでしょう。
お大尽様たちの高等遊戯。己の推理を披露する会ですね。

位置: 607
ミス・ダマーズは触れなば落ちん 風情 だった。どうやら、彼女はいまにもユーステス卿の 手練手管 に負けそうなようすだった。二人は夕食をともにし、外出し、昼食に誘い、ハイキングに出かけるなどなど、片ときの休みもなく会っていた。ユーステス卿は、毎日毎日、彼女がいまにも身を許しそうな気配に刺激されて、彼の知るあらゆるテクニックを 弄 して自分の熱い思いを 吐露 した。
ミス・ダマーズはそこで静かに身を引き、そして翌年の秋に長編を出版して、その中で、ユーステス卿をとことんまで細切れにし、あからさまに不快そうな手つきで、世間に向かって、彼の心理を解剖してみせた。

女性を口説く手練手管を発表される、これほど屈辱的なこともありますまい。
なかなかいい趣味をしてらっしゃる。これだから女性は信用ならぬ。

位置: 677
(1) チャールズ・ワイルドマン卿、(2) フィールダー・フレミング夫人、(3) モートン・ハロゲイト・ブラッドレー氏、(4) ロジャー・シェリンガム、(5) アリシア・ダマーズ、そして(6) アンブローズ・チタウィック

この順番で話すんですが、毎回のようにどんでん返しがある。これがこの本の面白いところ。

位置: 1,225
「相変わらずね、ブラッドレーさん。わたくし、あなたのご本の中でも、たびたびそれに気づきましてよ。あなたが、一つのことを、非常に強調してお書きになっているので、読者はその断定を疑ってみることを忘れてしまうんですね。『ここにあるのは』と、その探偵がいいます。『赤い液体を入れたびんです。ここにあるのは、青い液体を入れたびんです。もし、これら二種の液体がインクだということになれば、それらは、書斎の空になったインク・スタンドに入れるために買われたものであることは、あたかも、死者自身の心を読んだように確かなことです』と。ところが、赤インクはメイドがワンピースを染めるために買ったもので、青インクは秘書が万年筆に入れるために買ったものだったとか、そのほかいくらでも、そんなふうな説明はつきますわ。それなのに、そういう可能性は黙殺されているというわけ。そうじゃありませんこと?」
「まったくそのとおり」と、ブラッドレーは落ち着きはらって同意した。

叙述トリックでしょうかね。チェーホフの銃といいますか。

ペダンティックですね。言ってることが難しい。

位置: 1,636
そこで、遺憾ながら、フィールダー・フレミング夫人は大芝居がかってきた。悲劇の女王よろしくやおら立ち上がって(ただし、悲劇の女王たちはあみだにかぶった帽子をぶるぶる震わしたりはしないし、それに、もし彼女たちの顔が感情のために紫色になりそうなら、適当なドーランを塗ってその顔色を隠すものだが)、椅子が鈍い不吉な音を立てて背後に倒れたのもおかまいなく、震える指をテーブルの向かい側へ突きつけ、五フィートの身体髪膚のすべてをかけて、チャールズ卿にまっこうから対した。「 汝!」と、フィールダー・フレミング夫人は声をうわずらせた。「汝こそ天人ともに許さざる男!」彼女の突き出した指は扇風機についているリボンのように震えた。「カイン (アダムとイヴの長男で弟アベルを殺した) の 烙印 がその額に押してある!

歌舞伎だね、まるで。
しかしこういうのがイギリス小説の面白いところでしょうね。

お国柄でしょうか、島国同士、どこか近いところがあるんでしょうかね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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