忠臣蔵はすでにメジャーな話ではない。
「大石は遊廓を総揚げしていない」「討ち入りのとき、赤穂浪士たちは太鼓を持っていなかった」「吉良は浅野の美しい奥方に横恋慕してはいなかった」――。
時代劇や小説に埋もれた真実を、テレビでおなじみの山本先生が、根拠となる史料を丁寧に引きながら、ライブ講義形式で解説。事件の発端から切腹までの流れを、その背景や当時の常識、史料に残された証言、浪士たちが遺した手紙、間取り図や地図なども多数紹介しながらひもといていく。史料によって伝えることが大きく違う赤穂事件。その最も真実に近い姿を浮き彫りにする待望の一冊。 あなたの「忠臣蔵」観が大きく変わる決定版!
あたくしの同僚もあんまり知りません。
どうしてこうなったのか。ジャニーズあたりにやってもらわなきゃ駄目か。
第2章 赤穂城開場 ~揺れる赤穂藩
位置: 982
「亡き殿が御本意を遂げられず御切腹になったことは、臣として忍び難く存じます。赤穂の面々にも相談しましたので、御覚悟を決めてください」
という安兵衛らに、赤穂藩の江戸家老であった安井彦右衛門は、
「浅野家の再興がなれば、亡き殿は吉良の首を御覧になるよりはどれほどお喜びになるかしれない」
と諭した。しかし、安兵衛らは、
「殿は、2つとない命を捨てたのですから、吉良の首さえ御覧になれば、必ずお心に 叶うことだと存じます。我々は亡き殿のみを主君に 仰ぐのであって、内匠頭様以外に主君はありません。大学殿の御家を立て、主人の仇を差し置くことはできません」
と答え、以後安井とは音信不通とした。位置: 1,003
──それにしても、江戸家老と安兵衛では、ずいぶん考え方が違いますね。 そうですね。これは、主従関係というものを考えるうえで、大変重要な違いです。主従関係を家を中心として考えれば、浅野は主君のひとりであって、浅野が死ねば次の主君に仕えればよい、ということになります。代々その家に仕える家老などは、そう考える人が多いです。
でも、主従関係は、「現在の主君と自分とのパーソナルな関係」だと考えれば、主君が死ぬと、主君のあとを追って腹を切る殉死などということも起こるわけです。
信じる武士道の差、というかね。これは価値観による。
安兵衛らはあくまで内匠頭につかえていて、安井は藩に仕えている。
こういうことって、結構あるよね。同じ組織でも認識の違いか。
第3章 江戸急進派と大石内蔵助
位置: 1,367
勘平が家に帰ると、祇園町からお軽の身売り先の一文字屋の女房が来ていて、話を聞いた勘平は、奪った財布が義父与市兵衛が持っていたものであることを知り、まちがいとはいえ親を殺してしまったと誤解しがく然とします。そこへ与市兵衛の 遺骸 が運び込まれ、お軽の母おかやは、勘平が持っていた財布を証拠に勘平を責め、勘平は腹を切ります。
しかし、与市兵衛の傷が刀傷であったことから、勘平が義父を殺したのではなく、逆に偶然とはいえ義父の仇を討っていたことがわかります。汚名をそそいだ勘平は、 敵討ちの連判に加えられ、お軽が身を売った100両を同志に託して静かに息を引き取ります。
落語だとみんな勘平をやりたがりますが、なるほど、格好いい役だ。死に様がいい、ってのは素敵だよね。100両を同志に託して死ぬ。かっこいい。
第4章 御家再興運動の挫折 ~脱藩していく同志たち
位置: 1,622
国文学者の田口章子さんは、このような話が広がったのは、儒学者の室鳩巣のためだと指摘しています。赤穂浪士の討ち入りに感激した鳩巣は、『 赤穂義人録』という書物を書き始めます。そのなかで、当時、世間に広まっていた原惣右衛門の母が自害した、という噂を書きました。この子にしてこの母あり、という感動話を書きたかったのでしょう。これがもとになって、またいろいろな話が作られていくことになります。
どんどん膨らむんだな。今もそう。美談には気をつけなきゃ。
話題を雪だるま式に膨らませて利を得ようとする人がいるのは、古今東西変わらない。
第6章 吉良邸討ち入り ~決戦の時
位置: 2,312
──吉良側は、かなりやられていますね。でも、たしか吉良家には、上杉家からつけられた 清水 一 学 という剣の達人がいませんでしたか? この人はどうしたんですか?
たしかに清水一学という人がいて、台所で討ち死にしています。でも、この人は用人で、上杉家の付き人は家老の小林平八郎です。時代劇ではよく、清水一学に活躍させているんですが、小林平八郎ととり違えているという説もありますね。
そーだったのか。森村先生の忠臣蔵であんなにかっこよく描かれていたのに。
第7章 赤穂四十六士の切腹 ~その後の赤穂浪士たち
位置: 2,549
──当の五代将軍 徳川綱吉 はどう考えていたんでしょうか? 自分の評定が間違っていたといわれたことになるわけですよね? 何か史料は残っていないんでしょうか?
ほんと、それな。
徂徠豆腐にもあるように、荻生徂徠はこの忠臣蔵で名判断をしたことで有名とされていますが、結構厳しいこと言ってるんですよね、赤穂浪士たちに。
あたくしの認識では江戸町人はたいてい赤穂浪士の味方だったと思っていて、その中で上杉の家のことや秩序のことを総合的に勘案したこの人はすごい人だというのは、まさにそうだな、と思うところ。
位置: 2,665
──幕府は、結局、 46 人の行動を「徒党」だと解釈したんですね。 ええ、「主人のあだを報じ候と申し立て」という文章のニュアンスは、「主人の 仇 ではないのに、そのように主張した」ということですから、吉良は浅野の仇ではない、と幕府が考えていることを表しています。そうなると、 46 人の行動は、 敵討ちではなく「徒党」になります。
記録上は仇討ちにならない、ということ。面白いね。
位置: 2,767
── 吉良 左兵衛 は討たれたほうで、被害者ですよね? それにもかかわらずなんで 流罪 になるんですか?
討ち入りを防げなかったことが「不届き」だとされたんです。でも、これは納得できないですよね。だって、家臣たちでさえ戦いに参加した者はわずかだったのに、 長刀 で戦い、負傷して倒れたんですから、十分がんばったと思います。それに、「勝敗は時の運」ですから、とがめられる筋合いはないはずなんです。それなのに幕府は、父親の首を取られたというだけで「不届き」としました。結果だけを問題にするあまりに厳しい処分です。
ただ、それだけ世論は、討ち入りした側に同情的だったということでもありますね。討ち入りした者全員が切腹ですから、それとつりあいをとったということなんでしょう。
高島藩でお預け中に没しましたから、吉良家は断絶することになりました。赤穂事件の中で、いちばんの被害者は、この左兵衛じゃないかとわたしは思います
やりきれないよねぇ。やっぱり現代の価値観でいうなら、先に手を出しちゃ駄目だって話だと思うもの。
位置: 2,834
でも、北海道大学名誉教授で思想史家の田原 嗣 郎 さんは、 46 人の行動について、次のように述べています。「長矩がいかなる人物でも、またいかなるきっかけで突然小刀を振るって吉良に斬りかかり、取り押さえられて死刑になったとしても、そういう 君側の感心しない事情を無視して、ただ長矩がやろうとして果たせなかった吉良の殺害を実行した、ということを高く評価しようとすれば」
と何重にも限定をつけて、
「己を空しくしてむやみに君に従うことを〝義〟とでもするほかはない」
といっています。つまり、個々の武士が、まったく善悪の価値判断をしないで主君に盲従することを、果たして「義」というべきかを問題提起しています。理性的に見れば、田原さんのいう通りだと思います。
ただ、 46 人の中にある心情を推測すると、そうまで切り捨てていいものか、という気もします。
うーん、やっぱり納得できないところはある。
位置: 2,852
つまり、主君と吉良はけんかをしたのに、主君だけが切腹になった。これは幕府の「片落ち」の処分だった。だから、吉良が生きている限り、武士社会の常識では、赤穂藩あるいは旧赤穂藩士の「人前」(第3章2) はどうしても回復することができない。
そういう不名誉な境遇に身を置くことは、死んでもいやだという旧藩士たちが、協力してついに藩と自分たちの名誉を回復したというのが、討ち入りの本質だったということでしょう。
どこまでもメンツを気にする人種ですね。
ドラマなどの任侠の世界と大差ない。
位置: 2,861
田原さんもいっていますが、売られたけんかは買わなきゃいけないというのは、現代の常識では、どう見てもまともな人間のすることではありません。 でも、武士社会は、そういう社会でした。
やだやだ。
位置: 2,872
こういう精神は、まさに戦国時代以来の武士らしい武士のものです。それが、平和な時代になって行き場を失って、無頼な行動となって表れたんでしょう。ふつうの武士は、そういう行動はしなかったけれども、そういう精神は、多くの武士の中にまだ残っていた。それが、主君の無念の死によって目覚めた。
町人までもがこれに快哉を叫んだ、ってのがやっぱりよく分からないんですよね。
どこに共感するところがあったのか。
あとがき
位置: 2,897
本書を読めば、「忠臣蔵」初心者でも、そのもとになった赤穂事件というものがどういう性格の事件だったかがわかるはずです。 「忠臣蔵」は、忠義の物語だと思っている人がまだまだ多いと思いますが、史料を読めば読むほどそんなものではなかったことを実感します。
本書を読んでくださった方にはもうおわかりでしょうが、これは「武士の一分」の物語であり、また自分が正しいと信じるものに対して私心を捨てて行動した人間の物語だったのです。
素晴らしいまとめ。メンツを回復するための暴動だった、ということでしょうか。
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