『こころ』① これ、前半、かなりBLね

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終盤の手紙のところしか教科書に乗らない理由が何となくわかります。

明治期の文学者、夏目漱石の長編小説。「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」[1914(大正3)年]。「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の3部からなる晩年の傑作。親友Kを裏切って好きな女性と結婚した罪を負う先生の行く末には絶望と死しかない。「こころ」というタイトルに包まれた明治の孤独な精神の苦悩には百年たった今も解決の道はなく、読者のこころを惹きつけてやまない。新聞連載後岩波書店から刊行のとき、装幀は漱石自身が「箱、表紙、見返し、扉及び奥附の模様及び題字、朱印、検印ともに、悉く自分で考案して自分で描いた」。

面白いけれども、話のオチ自体は「なんじゃそりゃ」というもの。100年後の自分らには到底理解できない。ま、「明治は遠くなりにけり」ということでしょうか。

「先生と私」

位置: 191
私は最後に先生に向かって、どこかで先生を見たように思うけれども、どうしても思い出せないといった。若い私はその時暗に相手も私と同じような感じを持っていはしまいかと疑った。そうして腹の中で先生の返事を予期してかかった。ところが先生はしばらく沈吟したあとで、「どうも君の顔には見覚えがありませんね。人違いじゃないですか」といったので私は変に一種の失望を感じた。

位置: 529
「仲が好さそうですね」と私が答えた。
先生は苦笑さえしなかった。二人の男女を視線の外に置くような方角へ足を向けた。それから私にこう聞いた。
「君は恋をした事がありますか」
私はないと答えた。
「恋をしたくはありませんか」
私は答えなかった。
「したくない事はないでしょう」
「ええ」
「君は今あの男と女を見て、冷評しましたね。あの冷評のうちには君が恋を求めながら相手を得られないという不快の声が交っていましょう」

位置: 541
「恋は罪悪ですか」と私がその時突然聞いた。
「罪悪です。たしかに」と答えた時の先生の語気は前と同じように強かった。
「なぜですか」
「なぜだか今に解ります。今にじゃない、もう解っているはずです。あなたの心はとっくの昔からすでに恋で動いているじゃありませんか」

これ、いま読むと完全にBLですよね。もはや先生✕私でしかない。
「あなたの心はとっくの昔からすでに恋で動いているじゃありませんか」なあんて言われて御覧なさい、もうね、完全にデキてますよね、この二人。

「両親と私」

位置: 1,576
「お父さんの顔もあるんだから」と母がまた付け加えた。
私は我を張る訳にも行かなかった。どうでも二人の都合の好いようにしたらと思い出した。
「つまり私のためなら、止して下さいというだけなんです。陰で何かいわれるのが厭だからというご主意なら、そりゃまた別です。あなたがたに不利益な事を私が強いて主張したって仕方がありません」
「そう理屈をいわれると困る」
父は苦い顔をした。
「何もお前のためにするんじゃないとお父さんがおっしゃるんじゃないけれども、お前だって世間への義理ぐらいは知っているだろう」
母はこうなると女だけにしどろもどろな事をいった。その代り口数からいうと、父と私を二人寄せてもなかなか敵うどころではなかった。
「学問をさせると人間がとかく理屈っぽくなっていけない」
父はただこれだけしかいわなかった。しかし私はこの簡単な一句のうちに、父が平生から私に対してもっている不平の全体を見た。私はその時自分の言葉使いの角張ったところに気が付かずに、父の不平の方ばかりを無理のように思った。

位置: 1,728
わが家は動かす事のできないものと父は信じ切っていた。その中に住む母もまた命のある間は、動かす事のできないものと信じていた。自分が死んだ後、この孤独な母を、たった一人伽藍堂のわが家に取り残すのもまた甚だしい不安であった。それだのに、東京で好い地位を求めろといって、私を強いたがる父の頭には矛盾があった。私はその矛盾をおかしく思ったと同時に、そのお蔭でまた東京へ出られるのを喜んだ。

二章では両親と自分、田舎と東京、そのあたりの対比がメイン。
もはや東京の価値観に染まってしまった私は、田舎の両親との価値観のズレに困惑しか無い。

あたくしは東京生まれですが、妻は田舎から出てきた人。
100年後の今でも、ある程度、少なからず、田舎と東京の価値観のズレというのはあるようで、妻は田舎に帰るつもりはなさそう。

味わい深い章でした。確かにここは中学生には分からないでしょうね。

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都内在住のおじさん。 2児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』
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