まずは雑感『海辺のカフカ 上』

まずは雑感を。

「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」――15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真……。

上下巻。上は面白かったです。話のテンポもいいし、出てくる人物もミステリアス。「村上春樹だなぁ」って感じはしますが。

P45
「ねえ、これを食べてくれない?私はいちごジャムのサンドイッチって、世の中で一番キライなもののひとつなの。子どものころからずっと」

こういうこだわりが妙に強い人間が出くるのが村上春樹でありジョジョなんですよね。あたくしは結構、この2つの人気作品の登場人物に似たところがあるような気がするんです。

台詞はお顔立ちが一風変わっていて、額が広くて花が小さくて丸い、頬はそばかすだらけで耳の尖った、乱暴な作りの顔の女性のもの。のちに主人公の姉疑惑が持たれる。美人かブスしかいない世界。

p72
白いコットンのボタンダウンの長袖のシャツを着て、オリーブ・グリーンのチノパンツを履いている。どちらにもしわひとつない。髪の毛は長めで、うつむくと前髪が額に落ちて、それを時々思い出した様に手ですくい上げる。

衣服の描写が妙に長いのもこの人の特徴ですね。何色の何を着る、特にどんな素材のものを着ているのかってのが、その人の描写に深く関係すると思っているんだろうな。きっとオシャレなんだろう、村上春樹とは。

p220
今は『虞美人草』、その前は『坑夫』です

漱石を読むというカフカ君。35歳のあたくしには『虞美人草』は難解過ぎました。それを15歳で読むという。兎に角素晴らしい。『坑夫』はあたくしも好きな短編です。漱石らしくないのが特徴で、なんだかもやもやしたものが残っています。

p222
そして少なくとも見かけは、穴に入ったときと殆ど変わらない状態で外に出てきます。つまり彼にとって、自分で判断したとか選択肢たとか、そういうことってほとんどなにもないんです。

『坑夫』の主人公に対する言葉。確かに、そこに成長みたいなのがないんですよね。だから異質なのかも。

そのうち読み直してみましょう。

p231
「フランツ・シューベルトのピアノ・ソナタを完璧に演奏することは、世界で一番難しい作業のひとつだからさ。とくにこのニ長調のソナタはそうだ。とびっきりの難物なんだ。この作品のひとつか2つの楽章だけを独立して取り上げれば、それをある程度完璧に引けるピアニストはいる。しかし四つの楽章を並べ、統一性ということを念頭に置いて聞いてみると、僕の知る限り、満足の行く演奏はひとつとしてない。これまでに様々な名ピアニストがこの曲に挑んだけれど、そのどれもが目に見える欠陥を持っている。これならという演奏はいまだない。どうしてだと思う?」
「わからない」と僕は言う
「曲そのものが不完全だからだ。

長いけどね。説得力がある気がします。
こういう本筋に関係ないところの話をオシャレにするの、村上春樹は得意かもしれません。ビールの飲み方しかり、サンドイッチの作り方しかり、音楽の話しかり。

P276
僕はそこからアドルフ・アイヒマンの裁判について書かれた本を選ぶ。(中略)彼の頭にあるのは短期間にどれだけローコストでユダヤ人を処理できるかということだけだ。

アイヒマン裁判といえば、ついこの間読んだ本の中にも映画『ES』とかスタンフォード実験とか出てきましたね。文学上のセレンディピティとでもいうか。

p306
ジョニー・ウォーカーは「ハイホー!」を口笛で吹きながら、猫の首をのこぎりで切り取った。鋸の歯がコリコリと音を立てて骨を切断した。馴れた手付きだった。太い骨でもないし、それほどの時間はかからない。しかしその音には不思議なほどの重みが合った。彼は切断した猫の首を愛おしそうに金属のさらに載せた。芸術作品を鑑賞するみたいに、少し離れて目を細め、それをひとしきり眺めた。口笛を吹くのを少し中断して、歯の間に挟まった何かを爪で取り、それをまた口に入れ、大事に味わった。

このジョニー・ウォーカーの完全無欠の悪役っぷり。いいですよね。悪役はまり。マクベスの台詞を引用するあたりもハマってる。そういえば大島さんもギリシャ悲劇を引用したりして、なかなか悪役ぽい。フェミ団体みたいなのが押しかけてきたとき、彼女らを「うつろな連中」と看破して「僕はそういうものを適当に笑い飛ばしてやり過ごしてしまうことが出来ない」と言い捨てるところなんか、悪役ずばり。

p421
「いいかい、田村カフカくん、君が今感じていることは、多くのギリシャ悲劇のモチーフになっていることでもあるんだ。

大学に入って一番最初にやった「オイディプス王」がまさにこの「海辺のカフカ」の重要なキーワードの一つでしたね。ちょっと適当にこういう教養主義的なの、もちだすんだよなー。

p450
ナカタさんは木工の仕事もすぐに好きになった

日本人の好きなタイプ、ナカタさん。典型的な職人、求道者タイプ。偏屈じゃないから典型的じゃないか。でも理想の一つですよね。教養はないかもしれないけど教養主義の極地にある人です。

下巻へ。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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