見ていて気持ちのいいものでは無い、老人のリアルが『スクラップ・アンド・ビルド』にある

若者からみた老人のリアルが、浮き彫りになっています。
見たくない人からしたら見たくないだろうな。都合は良くなかろう。

位置: 275
電気ポットで沸かした湯で茶を淹れ健斗がソファーに座る祖父のもとへ持って行くと、祖父は「いただきます」と言いようやくバウムクーヘンを食べ始めた。朝七時前に「殺せ」と母相手にわめき散らしてからおよそ九時間後の光景だ。健斗はしかしそれをおかしいとは思わない。柔らかくて甘いおやつという目先の欲望に執着する人だからこそ、目先の苦痛から逃れるため死にたいと願うのだ。

柔らかくて甘いものに対しては本能はあらがえない。
残酷のようでいて真理。そういう引き出しをいくつ持っていられるかで、結構対人スキルとか変わってくるんじゃないかしら。

位置: 662
今まで衆参両議院選挙や都議会議員選、都知事選といったすべての選挙で真面目に投票してきた健斗だったが、そんなことをしている場合ではなかったと気づいた。投票より、国民年金保険料不払いのほうがよほど直接的な作用をおよぼす政治的行為だ。自分は老人や老人的なシステムをただ生かすだけの今の政治に不満を抱いている。健斗は月曜にでも国民健康保険料の支払い方法だけ現金払いに切り替え、残る国民年金保険料引き落とし用の口座から預金を全額引き上げることを決めた

こういう細かいところから行動を人知れず起こすというリアリティ。誰にも言えないし言うべきでないと本人が思っていることを書くというのが作家のスケベ心かもしれません。いいよね。

位置: 791
素人は引っこんでろ! これだから、目先の優しさを与えてやればいいとだけ考える人間は困る。被介護者の自立をうながす立場に立つなら姉も叔父も気安く手をさしのべるべきではない。苦痛なき死という欲求にそうべく手をさしのべる健斗の過剰な介護は、姉たちによるなにも考えていない優しさと形としては変わらないが、行動理念が全然違う。まず出口を見据え、自分の立場を決めてから出直してこいと思った。

位置: 818
母から怒声を受けても叔父だけは攻略できると思ったのかその後しばらくごにょごにょ言っていた祖父だったがやがて諦め、前を向き直るとうつむき「もうじいちゃんは死んだらいい」と消え入りそうな涙声で言ったのを姉が「そんなことないよ」と慰めたが健斗はそれに対し余計なことを言うなと苛ついた。慰めてもらう前提の言葉はすべて受け流さないと、尊厳死へ向かう祖父自身のモチベーションがいちいち下がる。人の親になったくせに、人のことをなにもわかっちゃいない。

こういう了見の狭い考え、あたくしもよく起こします。短気は損気。また視野狭窄。おのれという人間の不完全さを感じるとともに、主人公に深く共感してしまいます。

位置: 1,021
敵陣に乗りこむようにして祖父の部屋まで行った健斗は、思わぬものを見た。若い女性ヘルパーの腕や胴体を、祖父が触っていた。もちろんベッドから降り立つための援助行動の世話になっているのだろうが、それにかこつけ必要以上に触っていることは明らかだった。家ではあんな援助行動を必要としていない。血色の悪いむくんだ手が、若い娘の白い肌をいやらしく穢している。
「自分で立てるだろうがっ」
「あ……ああ、健斗ね」
いきなり入ってきた孫に面食らったように祖父は両手を女性ヘルパーから離し、すっくと立ちあがる。八八歳にもなって性欲からくる行動を露わにするとは、本当に気持ちの悪い爺だ。

老人の肉欲という問題。
誰の肉欲もまぁ、あまり見ていて気分のよいものではないけれど、老人の一方的なそれは非常に嫌悪感を伴ってしまいます。何とか中立的にみられないものか。

そして主人公のどこまでもケツの穴の小さい考え方。もう可愛らしい。はやくあたくしも一人前の了見の持ち主になりたいものですね。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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