『その白さえ嘘だとしても』は補足的で好き

『いなくなれ群青』の続きです。
前回の補足的な話が多く、個人的には少し納得感が増しました。

クリスマスを目前に控えた階段島を事件が襲う。インターネット通販が使えない――。物資を外部に依存する島のライフラインは、ある日突然、遮断された。犯人とされるハッカーを追う真辺由宇。後輩女子のためにヴァイオリンの弦を探す佐々岡。島の七不思議に巻き込まれる水谷。そしてイヴ、各々の物語が交差するとき、七草は階段島最大の謎と対峙する。心を穿つ青春ミステリ、第2弾。

七不思議の謎とか、学園ミステリの王道のようでいいですよね。ドタバタ感もあって、基本的に好きなタイプの話。

位置: 427
水谷はこういう人間関係が、間違っているとも、 歪んでいるとも思わない。むしろ人としてまっとうだ。打算的に、自分本位に考えてみると、友人とは本音で語り合うよりも、できるだけ優しく、 噓 でも友好的に接した方が得だとわかる。性善説を信じる必要も、神さまの目に 怯える必要もない。ただ効率的に生きようとするだけでみんな善人になれる。社会というのはよくできている。

一時期、あたくしも務めて打算的に優しく振舞ったことがありましたが、長続きしませんでしたね。そこまで徹底して振舞い続ける意志の強さは、あたくしにはない。

位置: 765
「七不思議というからには、もちろん噂は七つあります」
一つ目は、恋愛 成就 のサンタクロース。  とても 律儀 なサンタクロースがいて、彼に「恋人が欲しい」と手紙を出すと、好きな相手をさらってでも連れてくる。
二つ目は、海辺に落ちている手袋。  クリスマスイヴには、小さなお地蔵様がある海辺の通りに、必ず手袋が落ちている。
三つ目は、魔女の手先のクリスマスパーティ。  魔女は階段島を監視するために、住人たちに手先を紛れ込ませている。その手先たちが、イヴに集まって行う秘密のクリスマスパーティがある。
四つ目は、島に逃げ込んだ犯罪者。  凄腕のハッカーがホワイトハウスのツイッターアカウントを乗っ取った。結果、大問題になり階段島に逃げ込んできた。
五つ目は、必ず失敗する演奏会。  イヴの演奏会は 呪われていて、絶対に開催されない。強引に開こうとすると悲劇が起こる。
六つ目は、毎年クリスマスケーキが供えられるお墓。  島のどこかに、イヴに欠かさずケーキが供えられているお墓がある。
七つ目は、願いが叶う聖夜の雪。  階段島のイヴには雪が降る。雪が降る夜空に向かって願い事をすると、それが叶う。

いい具合に謎が散りばめられてる。全部が分かりやすく解決されると三谷幸喜の映画みたいで楽しいんだろうけど。本作はそういうタイプのエンタメ作品じゃない。ドタバタ感が込められていていい設定なんだけどな。

位置: 943
「たとえば独りきりで 膝 を抱えて、泣いている子がいたとして。その子は深く悲しんでいて、誰にも会いたくないと思っていたとして。僕ならきっと、その子をそっとしておくよ。好きなだけ独りで悲しめばいいと思う」
「そう」
「でも、君は違うよね?」
「うん」
「僕はね、基本的には、相手の価値観を尊重しない人間は苦手だ。嫌いだと言ってもいい。でも、君みたいに強引に踏み込むやり方が、物事をずっと効率的に好転させることだってある」
振り払われるとわかっていても、頰をひっぱたかれるとわかっていても、それでも誰かを抱きしめるべき場面というのが、きっとこの世界にはあるのだろう。

その場面がいつなのか、分かったら苦労しないっていう。
抱きしめるべき時に抱きしめ、また放っておくべき時に放っておけばいい。泣いている人を見る前から「自分は放っておくほうだ」と決めつけるのが幼稚さであり若さですよ。
あたくしもかつては自らを「こっちだ」と決めつけて楽に生きようとしていました。

位置: 2,060
この子のことは、ずいぶん前から知っている。たしか真辺が小学四年生のころからだ。もう六年ほど前になる。

この一文が結構な伏線になります。

位置: 2,206
時任さんが予想した通り、アパートのあの部屋に大地を閉じ込めたのは僕だ。

七種君の十八番、アクロイド。
やってくれる。

位置: 2,756
僕のヒーローは立ち止まらない。
だから、いつだって悲劇的なんだ。戦い続ければ負けてしまうこともあるし、どんどん周りからは人がいなくなる。僕は何度もそんな場面をみてきた。

位置: 2,761
「君がしたことは正しかった。普通なら 上手くいっていた。ちょっとした 詐欺 に遭ったようなものだ。世の中は善人ほど損をしやすいけれど、それでも善人でいられる人は美しいと思う。君は間違いなく主人公だった。ただ脚本が悲劇的だっただけで、それは君の落ち度じゃない」

このへんの感傷的な語り口、嫌いじゃない。
「ただ脚本が悲劇的だっただけ」なんて気障ったらしくて使えませんよ、普通は。

位置: 2,850
「じゃあどうしろっていうんだよ」
「豊川さんに 訊いてみたらどうだろう? どうして演奏会を中止にしようと思ったんですか、って」
「できねぇよ、そんなの」
「どうして」
「あの子は、それを隠したくて七不思議なんてものまで作ったんだぜ? お前は噓つきだって言ってるようなもんだ。傷つくだろ」
復讐 みたいで、恰好悪い。  なのに真辺は、首を 傾げる。
「もう傷ついてるよ。たぶん」
「もっと傷つくって言ってるんだよ」
「それはいけないことなの?」
何をいってるんだ、こいつは。
もちろんいけないことだ。女の子を傷つけちゃいけない。人を傷つけちゃいけない。本能でわかることだ。
そのはずなのに、真辺由宇は、堂々と告げる。
大きくはない声で。感情的ですらない声で。ただ確信を持って。
「噓は見破られた方が、楽だよ。そりゃ、一時は苦しいかもしれないけれど、放っておいたらずっと苦しいままだから」
ようやく彼女の考え方を理解して、反論できなくなった。  ──そうか。真辺由宇は。
まず人を、善人として扱うんだ。

そしてヒロインが輝く。

位置: 3,077
正しいものは暴力的だ。それがルールのように窮屈に、文字の中に閉じ込められていればまだよかった。なのに、真辺由宇は自由だ。解放されている。それで正しいというのは、もう、反則だ。そんな正しさは、正しくなんてない。

正しさとはなにか、正義とはなにか。自由とは。
そんな問いに満足できる年齢に、本作と出会いたかったかもしれません。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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