『孤島の鬼』 乱歩の最高傑作じゃないかしら 1

『芋虫』なんかも好きですが、長編ではこれが随一かと。

私(蓑浦金之助)は会社の同僚木崎初代と熱烈な恋に陥った。彼女は捨てられた子で,先祖の系譜帳を持っていたが,先祖がどこの誰ともわからない。ある夜,初代は完全に戸締まりをした自宅で,何者かに心臓を刺されて殺された。その時,犯人は彼女の手提げ袋とチョコレートの缶とを持ち去った。恋人を奪われた私は,探偵趣味の友人,深山木幸吉に調査を依頼するが,何かをつかみかけたところで,深山木は衆人環視の中で刺し殺されてしまう……!
鮮烈な読後感を残す大乱歩の長編代表作を,初出時の竹中英太郎画伯による挿絵を付してお届けする。

乱歩ワールド全開の本作。
密室殺人にこだわりをみせながらも、結局「トリックとかじゃないんだ」という安心感。さすが乱歩。同性愛・奇形・略奪等々、人間の見にくいところを明確に浮かび上がらせる氏の精神性に感服します。終わり方もすごく好き。

位置: 131
木崎初代は、私が生れるときから胸に描いていたような女であった。色は憂欝な白さで、といって不健康な感じではなく、からだは 鯨骨 のようにしなやかで弾力に富み、といってアラビヤ馬みたいに勇壮なのではなく、女にしては高く白い額に、左右不揃いな眉が不可思議な魅力をたたえ、切れの長い一かわ眼に微妙な謎を宿し、高からぬ鼻と薄過ぎぬ唇が、小さい顎を持ったしまった頬の上に浮彫りされ、鼻と上唇のあいだが人並みよりは狭くて、その上唇が上方にややめくれ上がった形をしている、と、細かに書いてしまうと、一向初代らしい感じがしないのだが、彼女は大体そのように、一般の美人の標準にはずれた、その代りには、私だけには此上もない魅力を感じさせる種類の女性であった。

あくまで一般の美人の標準からはずれていて、でも自分にはものすごく魅力的に見える。そういう秘密めいた魅力もいいよね。どこか覗き見のエンタメ性を感じさせます。

位置: 174
変なことをいうようだけれど、容貌については、私は以前からやや頼むところがあった

美青年告白。「やや頼むところがあった」なんて書かれ方が素敵。

位置: 295
先にもちょっと述べたように、科学者諸戸道雄は、私に対して、実に数年の長いあいだ、ある不可思議な恋情をいだいていた。そして、私はというと、むろんそのような恋情を理解することはできなかったけれど、彼の学殖なり、一種天才的な言動なり、又異様な魅力を持つ容貌なりに、決して不快を感じてはいなかった。それゆえ彼の行為がある程度を越えない限りにおいては、彼の好意を、単なる友人としての好意を、受けるにやぶさかではなかったのである。

おやおや、BLですか。そうですか。
しかし諸戸さんの片思いですね。主人公は木崎初代に夢中ですから。報われないBLというのも、また、一つの典型的な美ですよね。

位置: 349
「君はわかっていてくれるだろうね。わかってさえいてくれればいいのだよ。それ以上望むのは僕の無理かも知れないのだから。だが、どうか僕から逃げないでくれたまえ。僕の話相手になってくれたまえ。そして僕の友情だけなりとも受け入れてくれたまえ。僕が独りで思っている、せめてもそれだけの自由を僕に許してくれないだろうか。ねえ、蓑浦君、せめてそれだけの……」

「たまえ」「たまえ」で迫られる、なんとも言えない悲痛な叫び。
ある程度非現実的でうっとりしますね。しかし、こういう言葉遣いは現代で使おうとするとやや芝居がかるというか、ウケないだろうなぁ、広くは。

位置: 357
それにしても、理解し難きは諸戸道雄の心であった。彼はその後も異様な恋情を 棄てなかったばかりか、それは月日がたつに従って、いよいよこまやかに、いよいよ深くなりまさるかと思われた。そして、たまたま逢う機会があれば、それとなく会話のあいだに、多くの場合は、世にためしなき恋文のうちに、彼の切ない思いをかきくどくのであった。

また恋文を送ってくるんだ、道雄が。
やめろよ、道雄。醜いぞ。人間は引き際が肝心だぜ。

位置: 644
私はある機会に、人々の眼をかすめて、その鉄板の上から、一と握りの灰を、無残に変った私の恋人の一部分を盗みとったのである(ああ、私はあまりに恥かしいことを書き出してしまった)。そして、その付近の広い野原へ逃れて、私は、気ちがいみたいに、あらゆる愛情の言葉をわめきながら、それを、その灰を、私の恋人を、胃の腑の中に入れてしまったのであった。

耽美だね。そんなタイトルの漫画もありました。
しかし、まぁ、それくらい愛してたんだな。分かる気がするよ、気持ちは。

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都内在住のおじさん。 3児の父。 座右の銘は『運も実力のウンチ』

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