でも読ませるよねぇ。
大正時代に極貧の生活を赤裸々に描いた長篇小説『根津權現裏』が賞賛されながら、無頼ゆえに非業の死を遂げた藤澤清造。その生き方に相通じるものを感じ、歿後弟子を名乗って全集刊行を心に誓いつつ、一緒に暮らす女に暴力を振るう男の、捨て身とひらき直りの日々。平成の世に突如現れた純粋無垢の私小説。
礼賛する気にはなれないけど、つい読んでしまう。
墓前生活
位置: 97
その清造には、〈何んのそのどうで死ぬ身の一踊り〉と云う晩年の詠句のあることが伝えられている。〈一茶を憶ふ〉と題されながらも、この一句には 自身のもはや自爆するをも覚悟した、捨て身のひらき直りと無限の怨みが込められているが、底に流れる二律背反した諦観と無念は、今なお不滅のものと思われた。
確かに良い句だ。『墓前生活』は同人デビュー作。
どうで死ぬ身の一踊り
位置: 1,126
この先、五年経っても十年経っても、やはり私と云う男は狭いアパートの一室なぞで、ひとりこうしたことを続けていかざるを得ない運命なのかと思えば、いっそ藤澤清造の全集も伝記も放り出し、父親と同様の、では積念の憂さは晴れはしない、きっとそれ以上の罪を重ねて、挙句ひと思いに果敢なくなってしまいたかった。同年代の、妻帯している友人が、「今はもう三箇月に一回、あるかないか」だの、「長く一緒に暮してると、だんだんうちのじゃ勃ちが悪くなる」なぞ、私の前でえらそうに言うのを聞くと、私は彼らの、そうした飽食の余裕が本当に口惜しかった。つくづく私も女が欲しかった。私のことを愛してくれる、優しい恋人が欲しかった。
偽らざる気持ちでしょうな。こういう夜が、人間にはある。
位置: 1,935
「……明日になって、まだひどく痛むようだったら、そのときは接骨医院で見てもらおう。でも、ぼくがやったって言われると、困ったことになるんだ……理由はわかるだろう? 自分で転んでぶつけたと言ってくれよ……ね、頼む」 自分の保身で頭が一杯の私は、横たわる女の枕元に手をついた。
全く最低です。でも、自分の中にリトル・賢太がいて、言いそうなんだよな、同じこと。
一夜
位置: 2,180
いつものことだがこのとき私は、頼むからおまえも謝まってくれ、と祈りたい気持ちになる。今、謝まってくれればまだ間に合うんだから、と。しかし、今夜もその祈りが女に届くことはなかった。
本当かねぇ……。根がスタイリストの彼が、怒り心頭に発している最中にそんな風に思っているのか。
どこまでも最低。だが、読ませるんだよなぁ。
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