『師匠、御乱心!』感想③ 私心は無いに越したこた無い #御乱心 #圓丈 #圓生 #圓楽

ほんとにね、特に小さん師匠の器のデカさったら。

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もし権力欲があれば、円生は小さんに会長を譲る訳はないし、また、小さんも円生に会長を譲ってもいいから戻って欲しいなどと言うはずはなかった。しかし、正確には、かなり違いがあった。  円生は、キッチリと筋を通し、曲がったことの嫌いな人だったが、それ故にやや包容力に欠ける面があり、ある人からは偏屈に思われていた。  一方、小さんは、包容力に満ちあふれた人で、まるで広大無辺の 菩薩 のようなやさしさを持っていたが、それ故に何かの決断をする時にこのやさしさが 足枷 となって決断力を鈍らせ、人によっては優柔不断に見えたのだ。  ちょうど 漱石 の〝知に働けば角が立つ、情に 棹させば流される〟の文句のように、知に働いて角が立ったのが円生で、情に流されたのが小さん。とかくこの世は住みにくい!

この世のどれだけの人が、「会長を譲ってもいいから戻って欲しい」なんて言います?談志師匠の協会脱退のときもそうですが、ほんとに小さんはデカい。権力欲とかをまるで感じさせない。そのあたりも芸の雰囲気によく出てる。とにかく小さんの話は、素朴で鷹揚で、昔話みたい。落語は人格が出ますからね。

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俺が、円楽と話していた時によく出る名前が志ん生だった。彼は志ん生を尊敬してるようだったが、それは志ん生の芸に対してではない。彼はある日、俺にこんな話をした。 「ぬうちゃん、俺は志ん生って人が好きなんだ。昔協会でマッタ 俱楽 部 って将棋のクラブをつくって毎月一回、将棋大会が行なわれていたんだヨ。ある時みんなで将棋を指してるトコロへ新聞記者が来た。そうしたらその時突然、志ん生師匠が〝マッタ!〟をした。  相手は二ツ目だから、〝ハイッ〟と元に戻したんだ。そうしたら、 〝アッ、これも待った!〟 〝ハイ〟 〝これも待った〟  とやってる内に、最後は戦う前の最初の駒の配置になっちゃった。それを見てた新聞記者は、次の日の新聞に〝志ん生は、将棋を指しても芸になり〟と書いたんだヨ。  だって俺は、そん時見てたんだぜ。それまではみんなと同じように黙って指してたんだヨ。ところが記者が来たとたんにガラッと変わってマッタを始めた。  俺は、これだなと思った。志ん生師匠は、自分を記者にどう見せるかを計算した。記者が噺家の将棋を取材に来るのは、 真面目 に指してるトコじゃない。何か面白いとこがあるんじゃないかと思って来てるんだヨ。  その時志ん生って人は、この記者は自分達に何を求めているのか、志ん生というイメージを損なわないようにする為には何をしたらいいのかを、自分で感じとってマッタをしたんだヨ。偉い人だねェ」

そして誰もが好きな志ん生師匠。この人のことを悪く書く人はいないね。フラがあって、酒が好きで、意外と計算高くて。落語家の鏡なんでしょうな。一つの到達点。圓生や8代目文楽も一方の極みでしょうが、やっぱり人気があるのは志ん生師匠。誰からも愛される。

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円生「今度また、十人真打をつくるてェから反対したんです。名前を出しちゃ悪いが、正蔵さんトコロの 照蔵 という男、これなんか、もう噺がバカセコだが、師匠の世話をするから真打にする。そんなことは、世間が納得する訳がない」

筋はね、通ってるんですよ。間違いない。が、理屈で正しいものが通ると思ったら、そんなに世の中は単純じゃない。理屈の中に真理があるとは限らない。

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「円丈、どうなんだ。あたしは、お前みたいな恩知らずを初めて見た。今までウチの弟子でそんな奴は一人だっていないんだ。それでも行くのかッ!」 「そうだヨ。お前にだって随分、着物をやったろ。そんなことは世間で通らないヨ! 何の為に面倒見たんだい! それでも行こうなんてとんでもない話だヨ!」  俺はこの心の拷問に耐え切れなくなって来た。俺の心は、もうズタズタになっていた。俺は、訳もなく悲しかった。涙が出そうになるのを必死にこらえていた。きっと師弟のこんな姿が、限りなく悲しかったのだろう。

これは悲しい。好いて惚れて入門して、耐えに耐えて憧れた師匠から、こんなこと言われたら。みみっちいし了見は狭いし、悲しすぎる。

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「それで葬儀の日取りは?」 「ハイ、明日四日がお通夜、六日が密葬で、葬儀委員長は私がやります!」  俺は、この言葉には 啞然 とした。何と誰にも相談もせず、自分勝手に日程と葬儀委員長をその場で決めてしまい、それをまた、誰の了解もとらずにマスコミに知らせてる!  円楽って男は、全く不可解だ。三遊協会が成立以後、一番助けの欲しかった頃、師匠を見捨てておきながら、イザ死んでマスコミの注目がこっちへ向くと突然、シャシャリ出て来て、〝ハイ、葬儀委員長は私です!〟と言う。きっと宇宙の中心は自分だとでも思っているんだろう。

それにつけても圓楽憎い。すごいね。この本読んだ笑点ファンは腰抜かすんじゃないかしら。それだけ笑点という番組が愛され、圓楽が愛された証左ですが。もしかしたら、いや、もしかしなくても、あれは演出に過ぎなかったのでは……と思いますな。本当に肚が黒いのは師匠の方だった。ってか。

またまた、稿を改めます。

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