『孤島の鬼』 乱歩の最高傑作じゃないかしら 3

佝僂(くる)とか、一生使わない漢字だろうなぁ。

位置: 2,457
僕の研究は、主として活体解剖という部類に属するものだった。生きながら解剖するのだ。そうして、僕はたくさんの動物のかたわ者を作ることに成功した。ハンタアという学者は鶏のけづめを牡牛の首に移植したし、有名なアルゼリアの「 犀 のような鼠」というのは、鼠の尻尾を鼠の口の上に移植して成功したのだが、僕もそれに似たさまざまの実験をやった。蛙の足を切断して、別の蛙の足をつないでみたり、二つ頭のモルモットをこしらえてみたりした。脳髄の入れ替えをするために、僕は何匹の兎を無駄に殺したことだろう。

そんな実験が本当にあったのかしら。真偽の程はどうでもいいけど、とにかくそういう世界観を強烈に紹介してくれるんですよね。この世界観。

位置: 2,471
僕が親を親と感じないわけはまだある。それは僕の母親と称する女に関してだが、この佝僂の醜悪極まる女が、僕を子としてではなく、一個の男性として愛したことだ。それをいうのは非常に恥かしいだけでなく、ムカムカと吐き気を催すほどいやなのだが、僕は十歳を越したころから、絶間なく母親のために責めさいなまれた。

さらっと色んな要素をごちゃまぜに突っ込んでくるんだ。このテーマだけで一冊かけるのに。

位置: 2,743
佝僂で背の低い点は母親とそっくりだが、そのくせ顔だけは異様に大きくて、顔一面に女郎蜘蛛が足をひろげた感じの皺と、ウサギみたいにまん中で裂けている醜い上唇とが、ひと目みたら、一生涯忘れることができないほどの深い印象を与え

「お父つぁん」こと丈五郎の描写。
例えが醜い。
「女郎蜘蛛が足を広げた感じの皺」って、オドロオドロしすぎやしませんか。

位置: 2,940
少しの油断から丈五郎の 奸計 におちいり、双生児と同じ監禁の身の上となった。非常に厳重な見張りだから、到底急に逃げ出す見込みはない。だが、僕よりも心配なのは君だ。君は他人だから一層危険だ。早くこの島から逃げ出したまえ。僕はもう諦めた。すべてを諦めた。探偵も、復讐も、僕自身の人生も。

丈五郎の奸計とはいかに。
この「君側の奸」とかにつかう女偏に干すという漢字、いいカタチしてるよね。

位置: 3,039
私の力はあまりにも弱いかもしれない。警察の助力を乞うのが万全の策かもしれない。だが、この稀代の悪魔が、ただ国家の法律で 審 かれたのでは満足ができない。古めかしい言葉ではあるが、眼には眼を、歯には歯を、そして、やつの犯した罪業と同じ分量の苦痛をなめさせないでは、此の私の腹が 癒えぬのだ。

そして復習を誓う。ゾワゾワしますね。そうでなくっちゃ。

警察ではなく、探偵。司法に問うのではなく私刑。
それでこそ探偵小説ですよ。

位置: 3,844
母親は生れたばかりの丈五郎をつれて、本土の山奥で乞食みたいな生活をしながら、世を呪い、人を呪った。丈五郎は幾年月この呪いの声を子守歌として育った。彼らはまるで別世界のけだものでもあるように、あたり前の人間を恐れ憎んだ。

そりゃ恨むよ。しかたがない。そこまでは同情の余地がある。むしろ同情しか無い。

最近わかったことですが、あたくしの母型の親戚には小人症の方が数名いるようでしてね。奇形とは結構繋がりのある血筋だということがわかりました。
あたくしは病気というほどではないんですがちんちくりんで、なんともはや。

位置: 3,862
蓑浦君、この死の暗闇の中だから、打ち明けるのだけれど、彼らは不具者製造を思い立ったのだよ。
君はシナの 虞 初 新 志 という本を読んだことがあるかい。あの中に見世物に売るために赤ん坊を箱詰めにして不具者を作る話が書いてある。また、僕はユーゴーの小説に、昔フランスの医者が同じような商売をしていたことが書いてあるのを読んだおぼえがある。不具者製造というのは、どこの国にもあったことかもしれない。

見世物にした、というのはありますよね。
映画『怪物園』なんてまさにそれ。乱歩もこれ、みたんじゃないかな。

意図的に作ることないじゃんか、と思うのは健常者の常識かも。彼は単に認められたかったのかな。全員が不具の世界を作りたかったのか。悲しいね。

位置: 3,882
恐ろしい妄想だ。おやじは日本じゅうから健全な人間を一人もなくして、かたわ者ばかりで埋めることを考えているんだ。不具者の国を作ろうとしているのだ。それが子々孫々の 遵守 すべき諸戸家の 掟 だというのだ。

それのどこが悪いのか。アプローチを丈五郎は間違えました。しかし、理想というか考え自体を否定するのは、どうも抵抗があります。NHKのバリバラをみると「笑えない」んですよ。あたくし、意外と倫理観高め。

位置: 3,916
「君は嫉妬しているの」
人外境が私を大胆にした。諸戸のいった通り、礼儀も羞恥もなかった。どうせ今に死んじまうんだ。何をいったって構うものかと思っていた。 「嫉妬している。そうだよ。ああ、僕はどんなに長いあいだ嫉妬しつづけてきただろう。初代さんとの結婚を争ったのも、一つはそのためだった。あの人が死んでからも、君の限りない悲嘆を見て、僕はどれほどせつない思いをしていただろう。だが、もう君、初代さんも秀ちゃんも、そのほかのどんな女性とも、再び会うことはできないのだ。この世界では、君と僕とが全人類なのだ。

いいよね、男の嫉妬。美しいよ。

そして大団円で道雄は病で死にます。「道雄は最後の息を引き取る間際まで、父の名も、母の名も呼ばず、ただ貴方様のお手紙を抱きしめ貴方様のお名前のみ呼び続け申し候」の最期、泣けるよね。

主人公や道雄は美青年、悪は醜悪。
この対立軸はやはり、注意しておきたいですな。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする