『心淋し川』感想2 時代小説はいいねぇ

閨仏

位置: 529
この家には、身持ちの悪い女ばかりが暮らしているからだ。

辞書を引きましたよ。身持ちの悪い、ってなんだ?
要するにあばずれ、多情の、ってことだそうです。

しかしこの「閨」なんて漢字、なかなか使いませんね。
閨房調査団以来か。ねやぼとけ、と読むんでしょうか。

位置: 676
半分は当たっている。けれどもう半分は違う。りきはそこに、六兵衛の闇を見た。
闇は真っ暗なだけに、 実 も本心も摑みようがない。ただ、ひとつ所に何人もの女を囲うのも、わざわざ不美人ばかりを 選り好むのも、六兵衛の中に暗く 穿たれた闇ゆえだ。
同じ闇は、りきの中にもあるのだろうか。それとも、六兵衛の丸い刃先で穿たれながら、少しずつ広がっているのだろうか。

穿つ、とかもね。時代小説くらいじゃないですかね、使われるの。
掘るとか付けるとかそういう意味でしょうけど、意味が広くて掴みづらいね。

位置: 724
「閨の道具に仏とは、何とも洒落がきついじゃないか。いやね、たまたまヤッチャ場の旦那衆に見られちまってね。たいそうな評判になったんだ」

ヤッチャ場、ってのもね。青物市場のことなんでしょうけど。
しかし何とも行き場のない不思議な話。好きだなぁ。

冬虫夏草

また不思議なタイトルですよね。wikiによると

子囊菌類のきのこの一種で、土中の昆虫類に寄生した菌糸から地上に子実体を作る。中医学・漢方の生薬や、薬膳料理・中華料理などの素材として用いられる。

んだそう。まぁ、穀潰しのことでしょうね。

位置: 1,768
膳の景色も、主人夫婦とはまるで違う。薬種業だけに滋養に重きが置かれ、養生訓を参考にした質素ながらからだに良いとされる菜が並んでいたが、あまりに貧乏くさいと嫁から不満が上がった。仲間たちと料理屋に通い慣れていた富士之助は、一も二もなく同意した。
しかし吉がもっとも応えたのは、息子の身近で世話を焼く楽しみを奪われたことだった。

結構、なにかに依存しないと生きていけない人間って多いですからね。
あたくしも酒に依存していますが。

息子の世話に依存するって母親は、結構いるんでしょうね。

明けぬ里

位置: 2,210
二番を張っていた白菊ですらも、二十五を過ぎると根津よりさらに格下の岡場所に移された。その現実は、ようを打ちのめした。たとえ稼ぎがよくとも、出る金の方が多ければ借金は少しも減らない。遊女として格が上がれば、衣装にもそれだけ金がかかる。豪華な 打掛 もきらびやかな 簪 も、一切が遊女の肩にのしかかる。年季が明けても借金は前よりも増えていて、一生涯、借金に首を絞められながら場末で色を売り続ける。色街を 苦界 と称する由縁だった。

そういうこと、よく聞くよね。
遊女についての記載は幅が広くって、どれが本当なんだか。

お金が稼げればすぐ出られた、なんてことを力説する人もいるし、いやいや苦界だと主張する人もいます。

位置: 2,308
「ご隠居、加減が悪いんだろ? やっぱりあたしに、世話をさせてもらえないかい? 何も返せないまま、このままぽっくり逝かれたら、夢見が悪いじゃないか」
ははは、と入れ歯の口を、愉快そうに仰向ける。
「葛葉が気にすることはない。言ってみれば、これはわしの罪滅ぼしだからな」
「罪……って、何だい?」
「長年、色街に通って、噓をつき続けた。忘八の片棒を担ぐに等しい真似をして、 妓 たちを使い捨ててきた。番頭たちのふんばりで家業は成り立ったものの、遊び癖のために女房や子供にも苦労をかけた……数えると、きりがない」
他人がうらやむ人生にも、物思いはあるのだなと、あたりまえのことに思い至った。
「だからせめて、最期は古女房に 看取ってもらうよ」
根津に来るのも、これが最後だと告げられた。半年前より明らかに嵩を失った背中を、いつまでも見送った。気づくと、ようは泣いていた。

引き際だなぁ、おじさん。いいカタチだ。

灰の男

位置: 2,456
忘れたくとも、忘れ得ぬ思いが、人にはある。
悲嘆も無念も悔恨も、時のふるいにかけられて、ただひとつの物思いだけが残される。
虚に等しく、死に近いもの――その名を 寂寥 という。

いい言葉だなぁ。寂寥。あたくしの日本語ソフトじゃまず「席料」と出てきましたがね。笑っちゃった。

位置: 2,679
それでも茂十は父として、息子の一途と無垢を好もしく思っていた。人生は妥協の連続であり、折れるからこそ他人の痛みも察せられる。
一方で山懐から湧き出る 清冽 な流れも、下流になるほど濁ってくるものだ。歳相応の泥を川床に蓄積した茂十には、十七歳の息子の澄んだ 佇まいは、愛おしくもあった。

川床に蓄積、ってのが風流だよね。時代小説好きが唸るフレーズを使ってくれる。さすがベテラン作家。

位置: 3,029
ねちねちと一晩中、恨み言をぶつけたり、何度か殴ったことすらある。
あの頃の己をふり返ると、いまさらながら 羞恥 がわく。表向きは温厚な差配を通し、他人の目がないところで、年寄りに酷い仕打ちをする。
こいつは悪党だ、息子の仇だ、だから何をしようと許される――。
嵩にかかって、ただ、もののわからぬ哀れな年寄りを、責め苛んでいただけだ。手前勝手な道理を通し、鬼畜の所業に言い訳を拵え、罪の意識すらなかった。

肝に命じなければなりません。あたくしも底意地の悪いところがありますから。

位置: 3,111
緋色の襦袢

このヒイロってのが何なのか、いまいち見当がつかなかったんで、改めて調べてみました。

色名の一つ。 やや 黄色 みのある鮮やかな 赤 で、平安時代から用いられた伝統色名。 『 延喜式』では 茜と 紫根で染めた色を深き とし、 紫 に次ぐ官位に用いた。

紫に次ぐ官位ですって、奥さん。
すごく良い色なのね。

位置: 3,117
大晦日の朝だった。いつもの時間になっても姿を見せず、茂十は塒の物置小屋を 覗いてみた。楡爺は、生まれたての赤ん坊のように手足を縮めた格好で事切れていた。 「そりゃあないぜ、楡爺……これじゃあ、肩透かしじゃないか」
骨と 肝斑 の浮いた手を握りしめ、茂十はさめざめと泣いた。
たとえ憎しみであっても、他とは比べられぬほどの深い縁だった。いざ失ってみると、胸の中から大事なものが抜かれたような気さえする。

まぁ、敵ってのは縁でいやあ深い方でしょう。
なるほど、人間ってのはこんな気持にも、なるものかねぇ。

まとめ

心淋し川、いい時代小説でした。
西條さんの本、また読んでみようかな。

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